高柳健次郎業績賞 2023年受賞者

「フレキシブルディスプレイ基盤技術の先駆的研究とプロトタイプ開発」

藤崎 写真

藤崎 好英博士

(日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部 チーフ・リード 1972生)

[学 歴] 1996年  3月早稲田大学 理工学部 電子通信学科 卒業
1998年  3月早稲田大学 大学院 理工学研究科電子情報通信専攻
修士課程 修了
2010年  3月東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 物質電子化学専攻
博士課程 修了
[職 歴] 1998年~2001年日本放送協会 京都放送局
2001年~2013年日本放送協会 放送技術研究所
2013年~2015年日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
副部長
2015年~2019年日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
上級研究員
2019年~2022年日本放送協会 放送技術研究所 研究企画部 副部長
2022年~現在日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
チーフ・リード
  ● 主な受賞等
2006年  5月映像情報メディア学会 鈴木記念奨励賞
2008年  5月映像情報メディア学会 丹羽高柳賞論文賞
2012年 10月IEEE IAS Technical Committee Prize Paper Award
(グループ受賞)
2020年  9月放送文化基金賞 放送技術(グループ部門)

主な業績内容

4K 放送・8K 放送の普及、放送/通信融合による多様な伝送路やメディアサービスの進化に伴い、場所や時間によらず 高画質なコンテンツを楽しめる環境が急速に広がるなか、映像表示を担うディスプレイの役割・重要性は益々高まって いる。プラスチック基板を使ったフレキシブルディスプレイは、超薄型・軽量で柔軟性にも富み、壁紙のような大画面テレビ から収納自在な携帯端末まで多様な視聴形態を可能とするため、メディアサービスに変革をもたらす技術として期待され ている。藤崎氏は、フレキシブルディスプレイの実現を目指した基盤技術の開発を先駆的に推進するとともに、国内外メー カーとの連携によりプロトタイプディスプレイの開発にも成功した。

プラスチック基板は耐熱性が低く、線膨張係数が大きく吸湿性も高いなど、ガラス基板と物性特性が大きく異なるため 従来のディスプレイで使われているデバイスやプロセス技術を適用することができず技術革新が求められていた。藤崎氏 は、2001 年からディスプレイ駆動の要となるTFT(Thin FilmTransistor)の研究に着手した。従来のシリコンに代わ り、有機半導体や酸化物半導体を使った新規TFT の開拓を進め、プラスチック基板上で作製可能な200℃程度の低温プ ロセスでアモルファスシリコンを凌ぐ高移動度性能を達成するとともに、これらTFTを微細・集積化したバックプレーンの 開発によりフレキシブルディスプレイ駆動デバイスの実現に目途を付けた。表示デバイスについても、ポリマー壁を導入し た柔軟な構造を持つフレキシブルな液晶デバイス、水分が浸透し易いプラスチック基板上でも長時間安定に発光できる有 機EL デバイスの開発を推進するとともに、これら表示デバイスとTFT バックプレーンを統合したアクティブ駆動ディスプ レイを業界に先駆けて試作・実証することで、フレキシブルディスプレイの開発に先鞭をつけた。これらの成果がきっかけ の一つとなり、フレキシブルディスプレイ開発が世界中で活性化し、フォルダブルスマートフォンの製品化など、フレキシブ ルディスプレイ実用化の流れにもつながった。

国内外メーカーとの連携により、大画面・高精細フレキシブルディスプレイの実用化を目指したプロトタイプ開発におい ても中心的な役割を担った。一連の取組みの一つとして、2018 年にLG Display Co.Ltd.、アストロデザイン(株)と連 携し、厚さ数ミリの薄板ガラスを用いたシート状の88型8K 有機EL ディスプレイの開発に尽力し、同ディスプレイを活用 した国内外のパブリックビューイングを通じて4K放送・8K 放送開始に向けた普及促進に貢献した。

2019 年には、シャープ(株)と連携し、プラスチック基板を使った重さ100g、厚み約0.5mm の30型4Kフレキシブ ル有機EL ディスプレイの開発にも成功した。同氏らは、高精細表示に適した画素回路の設計をはじめ、画面輝度の高精度 な計測と信号処理により表示ムラを改善する信号処理技術、画素の発光時間と輝度の緻密な制御により動画像を鮮明に 表示する技術を開発・実装するなど、ディスプレイの高画質化に寄与した。当時、中型サイズの高精細フレキシブルディスプ レイを開発した例がなく、国内外の放送機器展への出展をはじめ、多くの番組でも紹介され、将来の視聴スタイルを革新的 に変える技術として大きな反響を得た。

フレキシブルディスプレイの基盤技術開発からプロタイプの実証まで、一連の技術成果は、今後の映像メディアの発展や メディアサービスの向上を支えるディスプレイ技術の進展への大きな波及効果が期待される。