高柳健次郎業績賞 2023年受賞者

「光学系・信号処理との協調によるCMOS イメージセンサの高性能・高機能化」

香川 写真

香川 景一郎博士

(国立大学法人 静岡大学 電子工学研究所 教授 1973生)

[学 歴] 1996年  3月大阪大学 工学部応用物理学科 卒業
2001年  3月大阪大学 大学院工学研究科博士課程 物質・生命工学専攻 修了
博士(工学)
[職 歴] 2007年奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教
2007年大阪大学 大学院 情報科学研究科 特任准教授
2011年静岡大学 電子工学研究所 准教授
2016年カリフォルニア大学アーバイン校 客員准研究員
2020年静岡大学 電子工学研究所 教授
  ● 主な受賞等
2001年 11月日本光学会 日本光学会奨励賞
2002年   3月応用物理学会 講演奨励賞
2003年 12月映像情報メディア学会 研究奨励賞
2014年 12月浜松電子工学奨励会 高柳研究奨励賞
2015年 11月Japan Symposium on High-speed Imaging and
Photonics 2015 Junior Researcher Award
2017年   3月第32回電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞
(共同受賞)
2023年   5月International Image Sensor Workshop (IISW) 2023
Poster Award 1st place

主な業績内容

CMOS イメージセンサは、スマートホン内蔵カメラ、車載カメラなど、様々なカメラに不可欠なデバイスである。 近年、高感度化、多画素化、高フレームレート化の進展が著しい。特に、光の飛行時間からシーンの距離画像を得る LiDAR イメージセンサは、拡張現実や車の自動運転への応用に注目が集まっている。

香川氏は、光を情報担体として用いる情報処理技術をバックグラウンドとし、光技術・信号処理技術とを協調すると いう新しいアプローチでCMOS イメージセンサの性能向上に取り組んできた。すなわち、イメージセンサの弱点を光技 術・信号処理技術で補うことで、システムレベルで性能を向上するという、従来にない考え方に基づいている。

1998 年ごろから、撮影後の信号処理を前提として、物理層である光学系で信号処理を行う「コンピュテーショナル フォトグラフィ」の研究に従事して来た。2011 年から、静岡大学の川人祥二教授らが開発した超高速電荷変調器を利用 し、「圧縮センシング」と呼ばれる新しい信号標本化技術に基づく複眼型のCMOSイメージセンサを開発した。これは 露光時にランダムにオン・オフする電子シャッタを用いて電荷領域で光信号を圧縮し、撮像後に復元処理を行う。 電荷変調器のスピードだけで撮影のフレームレートが決まるため、劇的な高速化が可能となる。これにより、単発現象の 超高速ビデオ撮影を、当時世界最高速となる毎秒2億枚(時間分解能5ns相当)で実現し、氏が提唱する新しいアプローチ の効果を実証した。上記の技術は特殊なレンズアレイを必要としており、従来の撮像システムとの適合性に問題があった。 そこで、2015 年から通常の単眼レンズを利用可能な、モザイク状の構造をもつイメージセンサの開発に取り組んだ。 2022 年に毎秒3億枚(時間分解能3。3ns相当)の撮影結果を発表し、実用的な方式で実現できることを示した。 この技術を発展させ、2023 年にイメージセンサにおける重要な学会であるInternational Image Sensor Workshop (IISW)において、毎秒6 億枚(時間分解能1。65ns 相当)の超高速撮像とともに、疑似直接型と呼ぶ 新しい方式のLiDAR イメージセンサへの展開を発表した。

LiDARは、光が路面で反射して人を間接的に照明する、霧により散乱されるといったマルチパス干渉により、距離に 誤り(アーティファクト)が生じるという問題がある。

LiDAR イメージセンサには直接型と間接型があり、前者はマルチパス干渉の影響を受けにくいものの回路規模が大きく 画素数を増やしにくい、後者は回路規模が小さいため多画素化またはセンサの小型化が可能だがマルチパス干渉による 誤りが大きいといった課題がある。氏が開発したイメージセンサは、デバイス的には間接型であるため画素数を増やすこ とに適している。さらに、電荷領域で信号圧縮をして後処理により光波形を復元することから、直接型と同等の特性をも つため、マルチパス干渉による誤りを生じにくい画期的な方式である。その技術的卓越性が評価され、IISW において 43 件のポスター発表からPoster Award 1st placeに選ばれた。

香川氏が開発した擬似直接型LiDAR は、車やドローンの自動運転において注目すべき技術である。 2022 年からJST CREST「情報担体を活用した集積デバイス・システム」領域に研究課題が採択されている。この様に、 香川氏は光技術と信号処理技術とを協調させるという新しいアイデアに基づいて高性能CMOS イメージセンサを提案・ 実証しており、イメージング技術の進歩に大きく貢献している。