高柳健次郎業績賞 2022年受賞者

「Web 技術を利用した放送通信連携技術の研究」

藤沢 写真

藤沢 寛

(日本放送協会 放送技術研究所 ネットサービス基盤研究部・上級研究員 1970年生)

[学 歴] 1995年  3月早稲田大学 理工学部 電子通信学科 卒業
1995年  3月早稲田大学 大学院 理工学研究科
電気工学(通信)専攻修士課程 修了
[職 歴] 1995年日本放送協会 松江放送局
1998年日本放送協会 放送技術研究所
2007年日本放送協会 放送技術研究所 専任研究員
2019年日本放送協会 放送技術研究所 主任研究員
2012年日本放送協会 メディア企画室 副部長
2014年日本放送協会 放送技術研究所 上級研究員
2022年日本放送協会 放送技術研究所 シニアリード
  ● 主な受賞等
2001年  5月映像情報メディア学会 鈴木記念賞

主な業績内容

2000年以降、BS放送、地上放送がデジタル化され、高画質・高品質なコンテンツを同時に安定して多くの家庭に送り届け ることが可能となった。その頃、インターネットにおいては、動画配信、SNS、eコマース、検索エンジンなど、さまざまな双方向 サービスが急速に展開され、それらを支えるWebを中心とした多くの技術が生み出されていた。これらを背景に、放送と通信 を連携する新しいハイブリッド型サービスを可能とする技術の実現に期待が寄せられた。この技術の目指すところは、情報やコ ンテンツを同時に多くの人々に届ける「放送サービス」と、個々のニーズに合わせ、次々と新しいサービスが受けられる「インタ ーネットサービス」とを組み合わせた新しいサービスや事業の創出、およびそれらを利用するユーザーの利便性を高めることに ある。

2009年、藤沢寛氏は、上記の背景を見据えて、放送通信連携技術方式「ハイブリッドキャスト」の研究に着手した。当時のデ ジタル放送におけるデータ放送は、放送独自のBML(Broadcast Markup Language)で記述されており、インターネット との親和性に乏しく、放送以外でのサービスへの発展性に課題があった。そこで、Webの標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)において勧告化が進められていたHTML(Hypertext Markup Language)における動画 再生制御などのメディア関連機能に着目した。放送独自のBMLによる記述から、インターネットで汎用的に取り扱うことができ るHTMLによる記述への転換を提案し、その標準化、および実用化に尽力した。特に、Web技術を利用したハイブリッドキャス トの基本システム構成や、テレビ用Webアプリケーションモデルなどの開発に貢献した。さらに、W3Cにおいて、ハイブリッド キャストのユースケースや実装例を示し、豊かで多様なアプリケーションの提供が可能になることを国際的にもアピールした。

2012年、NHK、民放局、受信機メーカー等が参加する(一社)IPTVフォーラムにHTML5WGを立上げて主任を務め、 Web技術の柔軟性を生かし放送サービスの迅速な進化を可能とする、ハイブリッドキャスト技術仕様1.0版(IPTV-FJ STD- 0010,0011,0013)の策定に尽力した。

2013年、総務省「放送サービスの高度化に関する検討会」において、ユーザーが安全・安心にサービスを利用でき、オープン な開発環境の下で普及促進させるという次世代スマートテレビサービスの実現に向けた検討結果が示された。この検討結果に 基づき、IPTVフォーラム推進委員会技術部門リーダーとして、サービス運用の共通化に向けた各放送局と受信機メーカーとの 調整に尽力した。同年、NHKがハイブリッドキャストのサービスを開始し、2014年、在京民放局を中心にサービスが開始され た。テレビ上で、ゲーム性のあるクイズ番組との連動サービス、語学サービス、ソーシャルネットワーキングサービスと連携した サービス、スマホと連携したセカンドスクリーンサービスなど、趣向を凝らしたサービスが続々と開発され、ユーザーに利用され た。

2014年以降、テレビで高精細な4K/8Kを含むネット動画再生を可能とする技術や、テレビ放送とスマホアプリの連携によ り多様なサービスを可能にする端末連携技術の研究を主導した。W3Cで検討されていたWebブラウザ上での動画再生制御 やコンテンツ保護の規格や端末連携技術など、Webの国際標準化動向を踏まえてIPTVフォーラムでの標準化を推進し、 2015年、ハイブリッドキャスト技術仕様2.0版の策定に貢献した。

ハイブリッドキャスト対応テレビは、2022年6月現在、約1900万台、このうちネット動画再生が可能なテレビは約1500万 台出荷された。

以上のとおり、放送サービスの進化に資する放送通信連携技術の研究と実用化、普及促進への貢献により、放送メディアの 発展および放送通信産業の振興に寄与した。