高柳健次郎業績賞 2021年受賞者

「電波の生体安全性評価技術の開発と国際標準化」

平田 写真

平田 晃正

(名古屋工業大学 先端医用物理・情報工学研究センター センター長(教授) 1973年生)

[学 歴] 1992.4-1996.3大阪大学工学部
1996.4-1998.3大阪大学工学研究科博士前期課程
1998.4-2000.3大阪大学工学研究科博士後期課程(期間短縮)
[職 歴] 1999年  1月日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2001年  4月大阪大学工学部 助手
2005年  4月名古屋工業大学 助教授(2007年1月より准教授)
2016年  4月名古屋工業大学 教授
2019年  4月名古屋工業大学 先端医用物理・情報工学研究センター
センター長
  ● 主な受賞等
2006年文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2007年電気通信普及財団賞(テレコムシステム技術賞)
2009年Paper Award(International Symposium on Electromagnetic
Compatibility)
2011年KDDI財団 優秀研究賞
2011年文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
2013年電気学会 電気学術振興賞 進歩賞
2013年船井情報科学振興財団 船井学術賞
2013年Institute of Physics(英国物理学会) フェローの称号
2014年文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)
2014年電子情報通信学会 論文賞
2014年Paper Award (International Symposium on Electromagnetic
Compatibility
2015年IEEE Electromagnetic Compatibility Society,
Technical Achievement Award
2016年ドコモ・モバイル・サイエンス賞
2017年IEEE Fellowの称号
2017年電子情報通信学会 エレクトロニクスソサイエテイ賞
2018年日本学術振興会賞
2018年日本学士院 学術奨励賞
2019年電気学会 学術振興賞進歩賞 市村学術賞功績賞 電子情報通信学会
フェローの称号
2019年Paper Award (EMC Sapporo & Asia Pacific Electromagnetic
Compatibility )
2020年文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)
2021年電子情報通信学会 業績賞

主な業績内容

1980 年頃より、電磁界のヒトへの影響に関心が寄せられるようになり、世界保健機関(WHO)を中心とした国際的な 取り組みが行われている。WHO が認める国際機関である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)およびIEEE は、 低周波(100kHz 以下の周波数)では刺激作用、高周波(100kHz 以上)では電力吸収に伴う熱作用からの防護を 目的とした基準を策定している。これら基準の科学的根拠の一層の解明、さらにはその知見をワイヤレス機器などの 安心・安全な製品開発に反映させることが課題であった。電波ばく露による特定組織/器官に誘導される電流・温度 上昇を、人体の複合物理計算により評価し、さらにはそれに伴う電気生理あるいは体温調整機能などのシステム生物学 と融合した計算法を構築することができれば、得られた知見を有機的に連携し、科学的根拠に立脚した国際電磁界安全 基準の策定、さらにはワイヤレス機器の設計に貢献できるはずである。

平田博士は、個々人の医用画像から微小立方体で構成される人体モデルを構築、各立方体に、対応組織の電気・熱特性 を与え、電磁界支配方程式(マクスウェル方程式)と熱拡散方程式を離散化、特定組織・部位における誘導電流、および結果 として生ずる温度上昇の計算に成功した。特に、人体のような複合組織には適用困難とされてきた高速解法であるマルチ グリッド法を電磁界計算へ実装する手法を考案、同時に、モデル離散化に伴う数値誤差を軽減するための工夫を組込み、 従来手法に比べて数百倍以上の高速化と高精度化を同時に実現した。 また、熱計算においては、血流の存在などにより 従来困難とされていた体内深部温度変化の高精度計算を、熱拡散方程式と熱力学第一法則を満足するための補助方程式 を連立させる手法を考案、実験結果との比較により有効性を立証、計算コードをベクトル・並列化し、高速計算を実現した。 また、計算人体モデル(分解能・数mm)の複合物理計算と、導波路理論の拡張により表現した神経線維(直径μm)に対す る支配方程式を連携した計算法を提案、臨床結果との対比により電気生理反応の推定に成功した。また、生体複合物理計 算と体温調整システムとの混成計算法を開発、熱中症などの事例を用いた測定結果との対比により、成人と子供あるいは 高齢者といった年齢に応じた体温調整反応の相違を推定する逆問題を解決、種々の熱負荷についても生理応答が予測で きる技術とした。

高周波電磁界の生体作用は、温度上昇に伴う熱効果が支配的とされているものの、国際基準における評価指標は吸収 電力量が用いられている。4G 周波数帯において、有限質量(10g)、時間にわたり平均した吸収電力と局所温度上昇の間 には強い相関があることを提示、物理数学を用いた定式化を導入することにより立証、安全性評価指標を提案した。 また、5G の主要周波数帯では、波長の低減により、有限質量平均吸収電力に代わり有限面積にわたり平均化した吸収 電力密度と局所温度上昇との間に強い相関があることを見出した。特に5Gの主要周波数帯において、これまで国際基準 に不整合が生じていたが、平田氏の成果に基づき、電波に対する首尾一貫した安全性評価指標を提案、その許容値を導 出することに成功した。我が国では総務省防護指針が制度化(2018 年)、さらに2019 年および2020 年に発刊され た2 つの国際基準を整合に導いた。国際的に同一の基準でミリ波端末を人体近傍で利用できることになり、5Gの導入・ 普及に寄与した。