高柳健次郎業績賞 2020年受賞者

「インターネット時代における映像圧縮と映像通信に関する先駆的な研究開発」

甲藤 写真

甲藤 二郎

(早稲田大学 理工学術院基幹理工学部情報通信学科・教授 1964生)

[学 歴] 1969年  3月東京大学 工学部 電気工学科卒業
1989年  3月東京大学 工学系研究科 電子工学専攻修士課程 修了
1992年  3月東京大学 工学部研究科 電子工学専攻博士課程 修了
博士(工学)
[職 歴] 1992年~1999年日本電気株式会社 C&C研究所
1996年~1997年米国 プリンストン大学 客員研究員
1999年~2004年早稲田大学 理工学部 助教授
2004年~2007年早稲田大学 理工学部 教授
2004年~2008年新エネルギー・産業技術総合開発機構 主任研究員
2007年~現在早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 教授
  ● 主な受賞等
1991年 11月SPIE VCIP 1991, Best Student Paper Award
1995年  9月電子情報通信学会 学術奨励賞
2006年  9月電子情報通信学会 通信ソサイエティ活動功労賞
2015年  9月電子情報通信学会 フェロー
2020年  5月映像情報メディア学会 フェロー

主な業績内容

映像コンテンツはインターネットトラヒックの8割に達し、最近では4K/8K 放送や360度映像の普及に加え、テレワークやオンデマンド授業でも活用されている。このように、今でこそ映像コンテンツは企業活動から日常生活まで欠かせないものになっているが、これは長年にわたる多数の技術者によって開発された映像圧縮技術と映像通信技術に支えられている。甲藤氏は学生時代から映像圧縮と映像通信に関する研究開発に取り組み、国際標準化活動や社会活動にも参画し、本分野の発展に貢献してきている。

【映像圧縮技術】
甲藤氏は映像圧縮に関するいくつかの解析技術の提案を行っている。Wavelet 変換の最適化は、符号化ゲインと呼ばれる評価尺度に基づき、個々の手法の圧縮効率の理論限界を示すものであり、Wavelet 変換が既存の離散コサイン変換を凌ぐ可能性を示したことから、Wavelet 変換がJPEG-2000に採用される根拠を与えている。また、オーバーラップ動き補償の最適化は、元々はブロック境界に生じるギャップを低減するために提案されたオーバーラップ動き補償が、雑音除去として定式化することで予測効率の改善にも貢献することを示したものであり、結果として、オーバーラップ動き補償はH.263+に採用されている。また、符号量制御の最適化は、映像圧縮で広く使われているIPB ピクチャと呼ばれる3 つのピクチャタイプに対するビット配分の最適化を試みたもので、既存手法に対して大幅な画質改善を実現できることから、当時のMPEG-2 Encoder LSI に実装されている。これらの中で、特にMPEG-2 はデジタル放送とDVD の標準映像圧縮方式として広く普及しており、実社会への貢献も大きい。甲藤氏はまた、最近は深層学習を用いた画像圧縮に関する検討を行い、その圧縮効率を競う国際ワークショップCLIC において上位の成績を収めている。これは、近年、物体検出や物体認識で注目を集めている深層学習を画像圧縮にも適用するものであり、高々数年の開発期間で既存の国際標準方式を凌ぐ圧縮効率が得られている。

【映像通信技術】
甲藤氏はまた、映像通信に関するいくつかのシステム技術の提案を行っている。VR コンテンツとの統合配信方式はMPEG-4 の国際標準化の中で議論されたものであり、現在のCG コンテンツを重畳した映像生成技術につながっている。映像コンテンツの階層化キャッシュ配信方式は、現在は当たり前となっているインターネット上の映像配信を見越して提案を行ったものであり、視聴者は通信状況に応じて適切な階層を選択するとともに、システム側では人気度に応じてコンテンツの再配置を行う。高速性と低遅延性を両立するトランスポートプロトコルは、RTT を観測しながら、リンクをちょうど使い切るように送信パケット数を制御する方式であり、現在のTCP-BBR にもつながる提案になっている。また、知覚品質を考慮したMPEG-DASH コンテンツ生成方式は、映像信号の階層化圧縮において知覚差のない冗長な圧縮は回避する方式であり、ストレージ量の削減と、結果としての映像品質の改善をもたらしている。これらはそれぞれ映像品質の改善をもたらすものであり、今日のインターネット上における安定した映像通信の実現に貢献している。

【社会活動】
甲藤氏はまた、総務省の放送システム委員会専門委員等を務め、4K/8K 放送、HDR 拡張、安全・信頼性の確保等のいくつかのデジタル放送の技術基準策定にも貢献している。