高柳健次郎業績賞 2018年受賞者

「映像圧縮符号化方式の先駆的研究とその国際標準化
および普及活動」

高村 写真

高村 誠之

(NTTメディアインテリジェンス研究所 主幹研究員 上席特別研究員 1968年生)

[学 歴] 1996年  3月 東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻
博士課程修了 博士(工学)
[職 歴] 1996年  4月 日本電信電話株式会社 ヒューマンインタフェース研究所
2005年  8月 スタンフォード大学 客員研究員(~2006年9月)
2008年10月 日本電信電話株式会社 メディアインテリジェンス研究所
主幹研究員(~現在)
2017年  4月 日本電信電話株式会社 上席特別研究員(~現在)
  ● 主な受賞等
2002年  5月 映像情報メディア学会 丹羽高柳賞論文賞
2004年  3月 2008年3月、2015年3月
電気通信普及財団賞(テレコムシステム技術賞)
2006年  5月 情報処理学会 長尾真記念特別賞
2017年  5月 映像情報メディア学会 丹羽高柳賞業績賞

主な業績内容

インターネット上の映像コンテンツの流通量は年率31%のペースで急激に増加中であり、映像以外も含む全帯域のうち実に73%を占める。しかもこの割合は2021年には82%に達すると予想されている。現在流通している映像信号は非圧縮サイズの数百分の一程度にまで圧縮されており、映像圧縮技術がなければ世の映像サービスひいては通信サービス一般が破綻することは明白であるし、通信サービスの持続的発展のためには、より効率的な映像圧縮技術の継続的な研究開発が不可欠である。高村誠之氏は、1990年代の大学院在学中より現在に至るまで、一貫して本技術の研究開発とその国際標準化・実用化・普及活動に従事し、精力的に本分野の発展に多大な貢献をしてきた。

標準化:氏の画面間大域動き予測技術は、最大で符号量を27%削減、客観画質(PSNR)を1.8dB向上させるもので、国際規格MPEG-4に必須認定され、対応LSIを搭載したハンディカム、タブレット等の携帯端末で映像を手軽に長時間楽しむ新しい文化「モバイル・パーソナルコミュニケーション」の契機となった。氏の画面内傾斜予測技術は、最大で符号量を3.0%削減、客観画質を0.45dB向上させるもので、国際規格H.265/HEVCに必須認定され、4Kストリーミング・VODや4Kカメラつきスマートフォン、4K/8Kテレビ放送などに用いられ、2020年には26億個の規格準拠製品が出荷されると予想されている。

実用化:映像の非可逆圧縮において、より少ない符号量でより高い画質を得られるよう、映像一コマあたり数万個を超える膨大な符号化パラメータの全組み合わせを一コマはおろか映像全体にわたり最適調整することは不可能である。氏による「局所未定乗数最適化技術」は、映像全体でわずか3個のパラメータを調整することで最適化処理を従来の1,000倍以上高速化し、客観画質を1.0~1.9dB客観向上させ、符号量制御も一撃的に行える。さらにこれは符号化方式に依存しない汎用技術であり、ソフト/ハード、業務/民生、商用/非商用を問わず普遍的に用いられており、今後も必須たりうるものである。

普及活動:氏は1998年より、MPEG国内委員としてMPEG-4, H.264/AVC, H.265/HEVCの標準化活動に参加し、2011年よりMPEGとJPEGを所掌するISO/IEC JTC 1/SC 29の日本代表(国際)および専門委員長(国内)として、H.265/HEVCも含む600以上の規格投票案件を調整し、適時かつ円滑な国際規格の制定に貢献をしたほか、実際の標準化担当者を講師に招いた一般向け技術解説セミナーを2014年より定期的に企画・開催している。また氏が共編著の『H.265/HEVC教科書』は広く技術者や学生に膾炙し規格の普及を強力に牽引しているほか、多くの標準技術講演・解説記事執筆・国際符号化コンペティション主宰などを通し、映像符号化国際規格の制定と普及、技術向上に貢献をしている。

今日の映像通信は、高い基本性能を持ち標準化された圧縮技術と、その性能を発揮させる高度な符号化最適化技術の双方なくしては実現不可能である。同氏の双方への貢献は、今後もますます重要性が高まり、影響を与え続けるものである。