高柳健次郎業績賞 2017年受賞者

「波面補償を用いたホログラム記録試作ドライブの開発」

星沢 写真

星沢 拓
(株式会社 日立製作所研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 部長 1970年生)

[学 歴] 1995年  3月 東京理科大学 理工学研究科 情報科学専攻 修士課程修了
[職 歴] 1995年  4月 株式会社日立製作所入社 マルチメディアシステム開発本部
2007年10月 日立アメ力LTD.出向
2010年  1月 株式会社日立製作所 コンシユーマエレクトロニクス研究所
主任研究員
2017年  4月 株式会社日立製作所 研究開発グループ
テクノロジーイノベーション統括本部 部長
  ● 主な受賞等
2010年11月 International WorkShop on Holograohic Memories &
Display Best Parer Award
2016年  2月 一般社団法人情報処理学会 国際規格開発賞
2016年12月 映像情報メディア学会優秀研究発表賞

石井 写真

石井 紀彦
(日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部 上級研究員 1969年生)

[学 歴] 2006年 3月 慶雁義塾大学大学院 理工学研究科 博士課程修了
[職 歴] 1993年 4月 日本放送協会入局 放送技術研究所
2012年 6月 日本放送協会放送 技術研究所 チーフエンジニア
2015年 6月 日本放送協会 放送技術研究所 上級研究員
  ● 主な受賞等
2008年 6月 映像清報メテfア学会フロンティア賞

主な業績内容

2018年の4K8Kスーパーハイビジョンの実用放送開始やビッグデータの利用など近年、データ保存に必要な容量は指数関数的に増加している。これら映像データや解析用データは、将来にわたり必要不可欠であるため、大容量のデータを高速にかつ長期保存できる記録装置が必要である。星沢拓氏と石井紀彦氏はこの要求に応える次世代の光メモリーであるホログラフィックメモリーの研究開発を主導的に推進し、試作ドライブを完成させた。

非接触で長期保存可能な光メモリーでの大容量化手法では、多層記録による大容量化が検討されているが、記録層間の干渉により4層程度の多層化が限度と見積もられており、大幅な大容量化は困難である。また、1つのレーザービームで1つのビットだけを記録再生する、いわゆるビットバイビット方式であるため、高速化にも限界がある。

一方、これらの課題を打破できる光メモリーとして、ホログラフィックメモリーが有望視されている。ホログラフィックメモリーは記録データを記録媒体の厚み方向にわたり記録し、かつデータの重ね書き(角度多重記録)ができるため大容量化が見込める。また、数メガバイトの2次元データ(ページデータと呼ぶ)を一括で瞬時に記録再生するため、データの高速転送も可能である。さらに、記録媒体として感光性樹脂を用いることで、50年以上の保存寿命を期待できる。これらの特徴によりホログラフィックメモリーへの期待は大きく、実用化に向けた研究が盛んになされてきたが、これまでの光メモリーとは記録再生の原理が大きく異なるため課題も多く、テラバイト級の大容量かつ高速記録可能な実機としてドライブ開発に成功したグループはない。

両氏は、以下に述べる複数のコア技術を開発・採用することで、テラバイト級のデータ記録可能なホログラフィックメモリーの試作ドライブを完成させた。

星沢拓氏はRLL(Run Length Limited)高密度記禄とRLLターボ復号による大容量化、さらに参照光角度サーボによる高速化を進めた。記録媒体中のホログラム寸法を小さくするため、RLL変調を用い、ホログラム寸法を従来の1/2とし、さらに誤り訂正能力に優れたターボ復号の一部とすることで、高密度化によるSNR(Signal To Noise Ratio)の劣化を補う技術を開発した。これにより容量2テラバイトに必要とされる1平方インチ当たり2.4テラビットの記録密度での記録再生を実現した。また、角度多重方式のホログラフィックメモリーでは、高SNRでの再生を行なうために、参照光入射角の制御を短時間で高精度に行なう必要がある。そこで参照光入射角と最適角との相対誤差を光学的に検出し、0.003度以下に角度調整するサーボ技術を開発し、秒速1ギガビットでの記録再生を実現する目処を得た。

石井紀彦氏は波面補償技術による再生SNR向上と8K映像の記録再生を実現した。ホログラム記録媒体では、微小な体積変化を生じ、良好な再生光を得られない。この現象を補償するため、波面補償を検討した。シミュレーションから効果を推定し、実験から誤り率を60%程度低減できることが分った。これにより波面補償技術の有用性を確認できた。さらに、これらの技術を合わせたドライブを使用して、85Mbpsの8Kスーパーハイビジョン圧縮映像を記録し、リアルタイムで再生することにも成功した。

今回開発した技術により、保存すべきデータ量の増加という課題に対して大きなソリューションを提供するとともに、本装置の開発は放送業界、映像閏連産業、IT関連企業などの発展に寄与できるため、幅広い分野において大きな波及効果も期待される。