高柳健次郎業績賞 2016年受賞者

「情報空間におけるインタラクション技術に関する先進的研究」

稲見 写真

稲見 昌彦
(東京大学 先端科学技術研究センター 教授 1972年生)

[学 歴] 1999年 3月 東京大学 大学院工学系研究科 先端学際工学専攻修了 博士(工学)
[職 歴] 2001年 4月 東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻 助手
2005年 3月 マサチューセッツ工科大学 コンピュータ科学人工知能研究所
Visiting Scientist(併任)
2006年 4月 電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科 教授
2008年 4月 慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 教授
2016年 4月 東京大学 先端科学技術研究センター 教授
  ● 主な受賞等
2004年 3月 IEEE Virtual Reality Best Paper Award
2009年 8月 ACM SIGGRAPH Best of Emerging Technologies
2011年 4月 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2012年 3月 情報処理学会長尾真記念特別賞

主な業績内容

情報処理技術を含めた工学は、これまでもっぱら物質的な豊かさを追求してきた。しかし現在は物質的な豊かさが飽和状態に達しつつあるので、これからの工学は人類の幸福追求という原点に立ち戻る必要がある。よって世界的にも情報技術を生活の質的向上に役立て、心を豊かにすることを目指した研究は大きな流れとなりつつある。

バーチャルリアリティをはじめとするユーザインタフェースの分野は先端機器をより使いやすく、便利なものとするため、世界各国で活発に研究されている。しかしながらソフトウエアのみの研究が多く、ハードとソフトを適宜組み合わせることで五感とインタラクションを可能とする研究に関しては稲見昌彦氏が第一人者であり、米MIT MediaLab、仏INRIA、シンガポール大学等と当分野のトップレベルの研究所と国際共同研究を行っている。

稲見氏は、大学院博士後期課程(平成8年)より現在まで、東京大学、電気通信大学、慶應義塾大学において、バーチャルリアリティ、ロボット、ヒューマンインタフェース等の分野において情報空間におけるインタラクション技術に関する先進的な研究開発に取り組んできている。

(A)再帰性反射材を利用し、実空間と情報空間を自然に重畳可能とする「再帰性投影技術」、(B)ロボットをインタフェースとして利用する「ロボティク・ユーザ・インタフェース(RUI)」 、(C)コンピュータビジョンの双対といえる「ディスプレイベースドコンピューティング(DBC)」、(D)人間の感覚・表現を拡張するための技術「自在化工学」などにおいて大きな業績を上げてきており、学会や論文においても多くの発表を行っている。現在、(A)に関しては、胸部外科手術を支援する「Virtual Slicer」や自動車の後部座席やピラーが透明になったかのように外部環境を提示し、運転時の死角を低減する「透明コックピット」などの実用化に向けた研究開発が行われており、また(B) は、「 IP RobotPHONE」として製品化され、内外の大学、研究機関、科学館で広く利用されている。 また、(C)の技術はモーションキャプチャ、可視光通信、ロボット制御など広い分野に応用されつつあり、また、 (D)に関しては、「 SmartTool」「前庭感覚インタフェース」など感覚を拡張する技術を多数開発しており、当該分野に関する国際会議「Augmented Human Conference」の設立・運営に携わっているほか、「 超人スポーツ協会」を共同代表として設立し、自在化技術をスポーツを通し社会への普及を目指す産学連携の取り組みを行っている。

氏のこれらの研究は全て非常に高い評価を受けており、この領域において最も status の高い国際会議であるACM SIGGRAPH,SIGGRAPH Asiaでの査読付き実演展示部門Emerging Technologiesにおいて36件という多数の発表を行っており、2016年にはアジアから初の同部門のChairを務めている。

学協会等に関する貢献としては、日本バーチャルリアリティ学会やコンピュータエンターテインメント協会において評議員や理事を務め、また、国際会議においても多くの会で組織委員長や実行委員長などを務めている。

氏は、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)を始めとして非常に多くの賞(44件)を受賞しており、また、非常に多数(58件)の特許も取得しているなど、十分な実績を有しており、以上の先駆的な研究成果は学術分野にとどまらず、内外の報道機関により広く紹介されている。

稲見氏が情報空間におけるインタラクション技術の発展に貢献したことは国際的にも社会的にも高く評価されており、本賞を贈るにふさわしいものである。