高柳健次郎業績賞 2014年受賞者

「高精細度テレビジョン衛星放送用伝送方式の開発」

田中 写真

田中祥次
(日本放送協会 放送技術研究所 伝送システム研究部 上級研究員 1961年生)

[学 歴] 1988年   3月 熊本大学大学院 工学研究科 情報工学専攻 修士課程修了
[職 歴] 1988年   4月 日本放送協会入局 宮崎放送局技術部
1991年 7月 日本放送協会 放送技術研究所
2004年 6月 日本放送協会 放送技術研究所 主任研究員
2014年 4月 日本放送協会 放送技術研究所 上級研究員
  ● 主な受賞等
2009年   6月 一般社団法人電波産業会 第20回電波功績賞 総務大臣賞
「高度衛星デジタル放送用伝送方式の開発」
2014年   6月 一般社団法人電波産業会 第25回電波功績賞 総務大臣賞
「超高精細度テレビジョン衛星放送方式の開発」

主な業績内容

現行のハイビジョンの4倍、16倍の精細度を持つ超高精細度テレビジョン放送(以下4K・8K放送)の実用化に向けて、2016年の衛星デ ジタル放送による試験放送および2018年の実用放送の開始をターゲットとした研究開発が進められている。現在の衛星伝送方式ISDB-S は、一つの放送衛星中継器でハイビジョンを2番組程度伝送可能であるが、4K・8K放送では最新の画像圧縮技術を用いても伝送路の大容 量化が不可欠である。 田中祥次氏は、超高精細度テレビジョン放送サービスを衛星放送で実現するための伝送方式の開発を推進し、標準化に多大な貢献をしてき た。 同氏の主導のもと、同氏の研究開発グループは、2006年から現行の衛星デジタル放送の伝送方式であるISDB-Sを超える大容量伝送が 可能な方式の研究開発に取り組んできた。具体的には、誤り訂正符号としてLDPC(LowDensityParityCheck、低密度パリティ検査)符号 を設計・適用し、伝送効率の向上を図った。波形整形フィルタのロールオフ率を0.03とし、送信スペクトルを矩形化して電力を効率よく帯域内 におさめることでシンボルレートを高速化した。変調方式としてAPSK方式を採用するとともに、LDPC符号化後の伝送特性が最適になるよ うにAPSKのシンボル点配置を最適設計した。フレーム化の過程で格納するパケットの開始点及び終了点の情報をTMCC信号にのせて伝送 することでIPなどの可変長パケットの伝送を可能とし、放送と通信との親和性を向上させた。また、現行方式であるISDB-Sで採用されている 階層化変調などの機能は継続した。これらの研究開発により、一つの放送衛星中継器で約100Mbpsの伝送を実現し、4Kを3番組、8Kを1 番組放送することを可能とした。同氏は、これらの研究開発を主導的に推進した。

同氏は、標準化においても中心的な役割を果たした。2007年には、情報通信審議会でのBS追加4ch利用の検討において本方式を提案し た。提案は、2008年7月、諮問第2023号「放送システムに関する技術的条件」のうち「衛星デジタル放送の高度化に関する技術的条件」に反 映されるとともに、2009年2月に省令・告示に反映された。また、2013年には、情報通信審議会での超高精細度テレビジョン衛星放送方式 の検討において、低ロールオフ率によるシンボルレートの高速化および16APSKの採用による大容量化を提案した。提案は、2014年3月、諮 問第2023号「放送システムに関する技術的条件」のうち「超高精細度テレビジョン放送システムに関する技術的条件」のうち「衛星基幹放送 及び衛星一般放送に関する技術的条件」に反映されるとともに、2014年6月に省令および告示に反映された。  同氏は、2007年から電波産業会における衛星放送を所掌する作業班の主任として、これらの標準化を推し進めた。また、これらの標準化の 過程において実施された衛星伝送実験による方式の技術実証においても、同氏は主導的な役割を果たした。2008年には、放送衛星 BSAT-3aを利用した伝送実験で安定な伝送が可能であることを確認するとともに、世界初の放送衛星を利用した8Kスーパーハイビジョン の伝送に成功した。2013年から2014年にかけて実施した衛星伝送実験においては、16APSK(符号化率7/9)を用いて、一つの放送衛星中 継で約100Mbpsの伝送が可能であることを確認し、4K3番組、8K1番組を十分なサービス時間率で放送可能なことを示した。

2020年には東京オリンピックが開催されることとなり、2016年の試験放送、2018年の実用放送へ向けて、超高精細度テレビジョン衛 星放送の実施に必要な様々な規格策定および機器開発が実施されているところである。

このように、同氏は、超高精細度テレビジョン衛星放送の伝送方式の研究開発と技術実証および標準化活動の全般を通じ、放送サービスの 高画質化および衛星放送分野の発展に大きな業績を挙げている。