高柳健次郎業績賞 2012年受賞者

「デジタル放送用の高画質な映像符号化技術の実用化開発と普及」

山田 写真

山田悦久
(三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 映像情報処理技術部 主席技師長 1965年生)

[学 歴] 1990年 京都大学大学院 理学研究科 修士課程修了
[職 歴] 1990年 三菱電機株式会社 入社 通信システム研究所
1994年 通信・放送機構 出向 本郷リサーチセンター 研究員
1997年 三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
  ● 主な受賞等
2002年 関東地方発明表彰 発明奨励賞「動画像信号の符号化装置」
2010年 国際規格開発賞(情報処理学会 情報規格調査会)
2011年 第55回京都府発明等功労者表彰 最優秀賞
2011年 関東地方発明表彰 発明奨励賞「デジタル映像信号の符号化・復号装置」

主な業績内容

山田悦久氏は映像符号化技術の国際標準化および実用化開発、特にデジタル放送用の高画質な映像符号化技術の開発により、1990 年代後半から現在に至る国内外における映像機器・システムのデジタル化とその普及に貢献した。

同氏は、国際標準化機関であるISO/IECにおいてMPEG-2ビデオの規格化が進められた1990年代前半に、テレビジョン放送等で使 用されているインタレース(飛び越し走査)信号に対する新たな符号化技術を開発した。規格に採用されたこれらの技術は圧縮性能向上に 寄与し、他の技術と組み合わされてMPEG-2ビデオ(ISO/IEC標準 13818-2)として1995年に成立した。

同氏は、このMPEG-2ビデオ規格化へ技術提案する際に開発した技術をもとに、規格に準拠した符号化LSIと符号化装置を開発するに あたって、仕様設計や符号化制御アルゴリズムの開発に関与した。規格として定められているのは圧縮された符号化データから映像信号 を生成する「復号処理」であり、映像信号を圧縮する「符号化処理」については、用途に応じて色々な構成をとることができるように規格化 されておらず、多くの回路を使用してパラメータを総当りで調べて最も良いものを選んで高画質化を図ったり、回路を小さくするためにパ ラメータを固定にする、というような設計の自由度が認められている。同氏は1990年代後半に、独自に開発したソフトウェアシミュレー タを用いてコンピュータ上で実験を行い、人間の目による主観評価において画質への影響が大きいパラメータを抽出すると共に、そのパラ メータを画像信号の特徴に合わせて適切なものを選択するための制御手法を考案し、LSI上で必要となる回路規模と符号化画質のトレー ドオフの関係に対する調査を進めた。特に動きベクトルの検出手法や、画面の動き・変化に応じた符号化構造の切り替え手法の検討を行 い、実時間で高圧縮・高画質化の処理を実現する符号化アルゴリズムを開発した。これらの技術を実装した放送局向け装置の符号化画質 は国内外から高い評価を得るとともに、放送局において衛星を用いた映像素材伝送システム「SNG(Satellite News Gathering)」に使 用された。

2000年代前半にはISO/IECとITU-Tで進められたMPEG-4 AVC/H.264の規格化に参画するとともに、HDTV解像度の映画コン テンツをDVDビデオやBlu-rayへ記録するための技術検討を行った。この時、MPEG -2ビデオのLSI開発時に使用したソフトウェアシ ミュレータを用いてMPEG-2ビデオの更なる高画質化を図った。その結果、MPEG-4 AVC/H.264のMainプロファイルの性能が、特に フィルム素材に対してはMPEG-2ビデオに比べて不十分であることを明らかにし、Blu-rayやインターネット映像配信などで広く利用され ているMPEG-4 AVC/H.264のHighプロファイル拡張への契機となった。

同時期に、同氏は複数の映像符号化方式に精通していたことを活かし、MPEGの標準化作業においてRVC(Reconfigurable V ideo Coding)アドホックグループ副議長とISO/IEC23001-4及び23002-4のEditorを務め、規格化に貢献した。従来の映像符号化規格が 方式全体を一つの大きなシステムとして規定していたものに対し、RVCでは直交変換や動き補償予測などの細分化した符号化ツール単 位に規格を定めた。この規格化により、LSIや装置、ソフトウェアの開発の設計や検証作業が効率的に進められるようになった。