高柳健次郎業績賞 2010年受賞者

「フルHDTV対応コーディクLSIおよび装置の研究開発」

長沼 写真

長沼次郎
(NTTエレクトロニクス株式会社 デジタル映像事業本部 ビジネス戦略室主事 工学博士 1956年生)

[学 歴] 1981年 徳島大学工学部 卒業
[職 歴] 1981年 日本電信電話公社(現 日本電信電話株式会社)入社
2009年 日本電信電話株式会社 退社
2009年 NTTエレクトロニクス株式会社 入社
  ● 主な受賞等
2006年 逓信協会 第51回前島賞
2007年 文部科学大臣表彰( 科学技術分野)

主な業績内容

長沼次郎氏は、フルHDTVに対応したMPEG-2コーデックLSIの1チップ化に世界で初めて成功した。フルHDTVを符号化処理でき る装置は1995年以前にはサイズが小型冷蔵庫程度で価格は数千万円であり、2000年当時でも価格は約一千万円であった。その処 理量はパソコンに広く用いられている汎用CPUであるPentium4(3GHz相当)の10個分に相当する30GOPSという極めて膨大なもの である。この符号化処理を1チップのLSIで実現したことにより、符号化部は葉書サイズまで小型化され価格も数百万円台となった。

2002年に開発したLSIは放送プロフェッショナル用途のLSIであり、VASAと呼ばれている。VASA は2003年12月に開始された地 上デジタル放送を支えるLSIとして、地上デジタル放送の基幹システムであるデジタルTV中継網用符号化装置に搭載され全国展開さ れていると共に、放送局から家庭までの電波に映像データを載せるための送出用符号化装置等で広く実用に供している。また海外で の放送局の素材伝送装置にも広く利用されている。 2003年にはコンシューマ用途の1チップHDTVコーデックLSIであるISILを開発した。ISILは民生用HDTVビデオカメラに搭載された 世界で初めてのLSIであり、これにより民生においても映像のHDTV化が一気に加速した。

一方、MPEG-2の約2倍以上の圧縮性能を誇る最新の国際標準規格であるH.264に準拠したコーデックLSIの開発にも早期に着手 し、放送素材伝送に必要な画像フォーマットである4:2:2を処理可能な世界初のH.264コーデックLSIであるSAR Aを開発した。 SARAは海外を含む放送局の素材伝送用装置に広く採用されており、例えば2010年のFIFAワールドカップでは9カ国14放送局が素 材伝送用装置として利用し、日本に送られた映像のほぼ全てがSARAにより処理されたものであった。また、日本のIPTVサービスに おけるH.264符号化装置にも採用されている。特に地上デジタル放送のIP再送信サービスに関しては、SARA搭載の映像符号化装置 が放送局規定の品質ガイドライン基準をクリアした唯一の装置であり、SARAが本サービスの実現に不可欠な存在であった。

以上のとおり、長沼氏が開発したコーデックLSIは、現在の様々な高品質映像サービスの普及と発展に多大な寄与を果たしてきたと 言える。