高柳健次郎賞 2021年受賞者

「大陸間光海底ケーブルシステムの研究開発および実用化への貢献」

秋葉 写真

秋葉 重幸
(株式会社 KDDI研究所 元代表取締役所長 1951年生)

[学 歴] 1974年  3月東京工業大学 工学部電子工学科 卒業
1976年  3月東京工業大学大学院 理工学研究科電子工学専攻 修士課程 修了
1984年  7月工学博士(東京工業大学)
[職 歴] 1976年  4月国際電信電話 株式会社(現KDDI 株式会社)入社 研究所配属
1980年  7月マサチューセッツ工科大学(MIT)CAESフェロー(1年間)
1988年 11月国際電気通信衛星機構(インテルサット)研究開発部門 出向
(2年間)
2000年  7月株式会社 KDD研究所 代表取締役所長
2002年  6月KDDI海底ケーブルシステム 株式会社 代表取締役社長
2005年12月株式会社 KDDI研究所 代表取締役所長
2011年  4月株式会社 KDDI研究所 取締役主席特別研究員、
東京工業大学連携教授兼務
2015年  4月東京工業大学 『以心電心』ハピネス共創研究推進機構長
2018年  4月東京工業大学 イノベーション人材養成機構特任教授
2020年  9月退職
  ● 主な受賞等
1979年電子情報通信学会 学術奨励賞、応用物理学会賞
1988年Optoelectronics Conference(OEC’88)最優秀論文賞
1994年前島密賞
1995年電子情報通信学会 論文賞
1997年電子情報通信学会 業績賞
2000年IEEE Fellow
2005年電子情報通信学会 フェロー
2008年文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)
2011年紫綬褒章、電子情報通信学会 功績賞
2017年電子情報通信学会 名誉員
2018年市村産業賞 貢献賞
2019年IEEE Life Fellow

主な業績内容

秋葉重幸博士は、1976年以来、国際電信電話(株)おいて光デバイスと長距離光海底ケーブルシステムの研究開発と その実用化を主導した。当時、太平洋や大西洋といった大洋横断システムにおける大容量伝送システムの実現が大きな 問題であった。 同博士は光ファイバの損失が最小となる波長1.5μm帯のシステム実現に向けて研究開発を行い、 1979年に同波長帯の半導体レーザの室温連続発振に世界に先駆けたグループの一つとして成功した。 最初の光海底ケーブルシステムで採用された1.3μm帯では光ファイバの波長分散がほぼゼロであったため 多波長で発振する半導レーザが使用出来た。しかし、1.5μm帯では波長分散が大きく光パルスの伝送特性に大きな 影響を与えることから、完全単一波長で安定に発振する半導体レーザが必須となった。同博士はその目的で1/4波長 シフト分布帰還型半導体レーザの実現法を考案し、かつ、大規模な長期寿命試験を行い海底ケーブルで特に重要な長期 信頼性の確立に大きく寄与した。 開発した半導体レーザは第4太平洋横断光海底ケーブル(TPC-4)に導入され 日本と米国本土を直結する海底ケーブルの実現という大きな成果をもたらした。

TPC-4では、従来の1.3μm帯のレーザを用いたTPC-3に比べ中継器間隔は2.5倍以上の平均138㎞まで 拡大され、また、システム容量もTPC-3の280Mbit/sから560Mbit/sと2倍になり、中継器数とコストの大幅な 削減、及びシステムの高信頼化をもたらした。当時日米間の電話やファクシミリの国際トラフィック需要が急増していたが、 TPC-4の完成によりこれに応えることができた。ファクシミリに変わって電子メールが主流となりウエブサービスと合わせ てその後のインターネットの急速な普及に大きく貢献した。

同博士は開発の責任者として、1.5μm帯レーザを用いた光増幅方式による更なる伝送容量の増大とグローバルな ネットワークの発展に向けて研究開発と実用化を主導した。こうした研究開発により、国際テレビ中継も衛星通信から 海底ケーブルに移行するなど国際通信の主役は光海底ケーブルに移っていった。さらに波長多重方式を用いたシステム 開発においても同博士は、低雑音光増幅器や大口径ファイバを用いる新たな方式を提案するとともに中継区間の遠隔監視 技術を含めたシステム全体開発の統括責任者として指導的な役割を果たした。その成果はJapan-USケーブルや大西洋 横断TAT-14ケーブルに導入され、ファイバ当たりの伝送容量が160Gbit/s(波長当たり10Gbit/s、16波長多重)と TPC-5CNの32倍に増大し、インターネットの本格普及と相まってグローバルネットワークの主役へと発展を遂げた。

初めてのレーザ開拓以来、直近の30年間、大洋横断光海底ケーブルには1.5μm帯レーザが使用されており、 秋葉重幸博士は、世界的なグローバルインターネット社会の発展に大きく貢献した。