高柳健次郎賞 2020年受賞者

「超高精細映像技術の先駆的研究と 4K マルチメディアネットワーキング利用の普及への貢献」

青山 写真

青山 友紀
(東京大学 名誉教授 1943年生)

[学 歴] 1969年  3月東京大学大学院 工学系研究科 電気工学科修士課程 修了
1991年11月東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻 博士(工学)
[職 歴] 1969年  4月日本電信電話公社 入社
1973年  8月マサチューセッツ工科大学(MIT) 客員研究員
1994年  7月日本電信電話株式会社 理事 光エレクトロニクス研究所長
1995年  7月日本電信電話株式会社 理事 光ネットワークシステム研究所長
1997年  4月東京大学大学院 工学系研究科 電子情報工学専攻 教授
2000年  4月東京大学 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授
2006年  4月慶應義塾大学 デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授
2010年  4月慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 特別招聘教授
2012年  4月慶應義塾大学 理工学部 訪問教授
  ● 主な受賞等
1994年電気通信普及財団 テレコムシステム技術賞
2000年情報通信月間推進協議会 志田林三郎賞
2002年(財)逓信協会 前島賞
2004年(社)情報通信技術委員会 情報通信技術賞 総務大臣表彰、
(社)電子情報通信学会 業績賞
2007年(社)情報通信技術委員会 情報通信技術賞 総務大臣表彰
情報化促進部門
2010年文部科学大臣表彰 科学技術賞、(社)電子情報通信学会 功績賞
2019年米国電気電子学会(IEEE) IEEE Masaru Ibuka Consumer
Electronics Award

主な業績内容

青山友紀氏は、超高精細 (SHD: Super High Definition) 映像技術の先駆的研究者であり、ディジタル信号処理技術のマルチメディア応用の研究開発を進めるとともに、強いリーダーシップで映画業界に影響を与え、100年もの歴史を誇るアナログフィルムに代わる映画のディジタル化を実現する等、世界標準となる「4K」の普及に貢献した。

様々な静止画像、動画像を同一のプラットフォーム上で扱うことを可能とするHDTV (High Definition Television)の次世代を担う映像メディアとして、オールディジタル処理、水平走査線数2000本以上・時間解像度最高60フレーム毎秒、プログレッシブ走査を基本とするSHD技術を1989年に提案した。SHD画像のデータ量は、静止画で100Mbit、動画像では6Gbpsに達する。そうした膨大なデータ処理を実現するため、DSP (Digital Signal Processor) アーキテクチャの理論面で先導的役割を果たし、1991年には128個のDSPノードからなるSHD静止画システムを実現した。ピーク性能としては1991年当時で最高の15GFlopsに達する卓越した処理能力を実現し、HDTV品質では困難であった医療・印刷・航空管制での高品質画通信を可能とした。SHD画像の圧縮等の高速処理をこの並列システム上で実現し、以後の動画像処理技術の礎を築き、1997年には世界初のSHD動画システムを実現した。

次に、コンテンツ産業分野で最も高画質な動画像を利用する映画について、フィルムからの置き換え、ディジタル化とネットワーク流通を実現する4Kと呼ぶ新たなディジタル映像技術を提唱し、その優位性を映画産業に認知させ、映画のディジタル化移行を推進した。慶應義塾大学、早稲田大学、中央大学、日本電信電話㈱、三菱電機㈱、日本ビクター㈱、シャープ㈱、ソニー㈱、松下電器産業㈱、㈱IMAGICA、㈱ナックイメージテクノロジー等の大学、メーカ、映画関係者を集め、2001年1月に会長として「ディジタルシネマ・コンソーシアム(DCCJ)」を設立した。DCCJでは、35mm映画フィルムの画像品質を完全にカバーできる、新しいディジタルシネマ(4Kディジタルシネマ)の概念を世界に向けて発信した。2002年には、ハリウッド映画産業関係者を集め、南カリフォルニア大学の映画映像評価施設ETC (Entertainment Technology Center)で、4K映像の上映システムを用いた評価実験を指揮して成功裏に収め、HDTVでは置き換え出来ないフィルムの映像品質を、4K映像メディアにより置換できることを関係者衆目の元で実証した。その成果は、ハリウッドにおけるディジタルシネマ標準仕様や世界標準の「4K」として採用され、ハリウッド映画配給会社、国内映画興業社、日本電信電話㈱の各社による2005年10月からの4K pureCinemaトライアルの実現に結びつき、2009年からの日本でのシネマコンプレックスのディジタルシネマ設備投資の本格化に結実し、今では世界の90%以上の映画館が採用するディジタルシネマの普及に大きな影響を与えた。

映画にとどまらず、ライブ映像配信や遠隔会議、遠隔医療など、映画以外の分野への4Kの適用にも尽力した。2005年には国際会議iGrid2005で日本と米国を結ぶ世界初のリアルタイム4K遠隔会議のデモンストレーションを実現し、関連業界に大きなインパクトを与えた。今では4Kテレビが一般家庭に広まり、世界各国で4K放送が行われ、4Kインターネット動画配信サービスや4K遠隔会議システムの販売も始まり、4K遠隔医療のトライアルも多く行われている。以上のように、候補者は、ブロードバンド・4Kマルチメディアネットワーキング技術の先駆的研究開発の推進して世界的潮流を起こすとともに、その分野における多数の技術者を育成、世界的に活躍する研究者を輩出するなど、後進研究者の育成に多大な貢献を行った。