高柳健次郎賞 2019年受賞者

「ニューラルネットワ-クの先駆的研究とパターン認識への応用」

福島 写真

福島 邦彦
((一財)フアジイシステム研究所 特別研究員 1936年生)

[学 歴] 1958年京都大学工学部電子工学科卒業
[職 歴] 1958年日本放送協会 入局
1959年日本放送協会 技術研究所 研究員
1965年日本放送協会 放送科学基礎研究所 研究員
1974年日本放送協会放送 科学基礎研究所 主任研究員
1984年日本放送協会 放送技術研究所 主任研究員
1999年大阪大学 基礎工学部生物工学科 教授
1999年電気通信大学 電気通信字部情報通信工学科 教授
2001年東京工科大学 教授
2006年~現在  フアジィシステム研究所 特別研究員
  ● 主な受賞等
1976年 電子情報通信学会 論文賞
1981年 放送文化基金賞
1982年 電子情報通信学会 業績賞
1984年 米国バターン認識学会賞
1985年 科学技術庁長官賞 研究功績者表影
1996年 電子情報通信学会 論文賞
2000年 電子情報通信学会 フェロー
2003年 IEEE二ューラルネットワークパイオ二ア賞
2006年 日本神経回路学会 論文賞
2006年 日本神経回路学会 名誉会員
2010年 INNS フェロー
2012年 INNS へルムホルツ賞
2016年 電子情報通信学会 功績賞
2017年 日本神経回路学会 学術賞

主な業績内容

福島氏は、NHK放送科学基礎研究所(当時)において、脳の生理学の知見を参考に工学モデルを構築する学際的研究から、パターン認識モデル「ネオコグニトロン」を1979年に開発し、今日のAI技術の中核であるディープニューラルネットワークの基本構造を生み出した。

福島氏の研究は、生理学の知見から情報処理に本質的に役立っている機能の同定と、不足部分の仮説設定とにより、高次脳機能のモデルを構築する研究である。大脳視覚野における線分や線の端点などの局所的な特徴を抽出するモデルや、多層神経回路モデルの入力層に複数のパターンを繰り返し入力すると自動識別機能が出来上がる、教師なし学習多層神経回路モデル「コグニトロン」などを提案した。さらにその発展形として、パターンの変形や位置ずれがあっても同一パターンと認識できるパターン認識モデル「ネオコグニトロン」を実現した。

福島氏はまた、生理学や情報学などの幅広い分野から脳の機能を議論できる場として日本神経回路学会の創設(初代会長)や、国際神経回路学会(INNS)の創設に尽力するなど、本分野における世界的な先駆的指導者として長年研究をリードし多大な功績をあげた。福島氏の開発したネオコグニトロンの構造を組み込んだ畳み込みニューラルネットワーク(以下CNN)が、近年、画像認識の技術を一変させてきた。画像認識の性能を国際的に競うILSVRC(ImageNet Large-Scale Visual Recognition Challenge)において、2012年にCNNが従来手法を圧倒して大きな話題となり、それ以降でトップの成績であった手法はすべてCNNをベースにしたものである。CNNは画像認識の分野に革命を起こし、音声や言語処理分野、生理学や心理学まで、幅広い分野に波及している。CNNにおけるネオコグニトロンの位置づけについては、科学雑誌Natureを始めとする論文や講演でも触れられており、福島氏のAI技術分野における功績は今や世界的にもゆるぎない。

放送業界におけるAI技術は、福島氏の研究の功績を基に大きな発展を遂げてきた。NHKで研究開発を進める画像処理に関する技術は、本研究成果を礎にしているもので、番組制作の高度化や効率化に大きく貢献している。例えば、氏のモデルを応用して開発した白黒映像の自動カラー化技術により、従来の作業時間を1/60に短縮するなど、制作者の働き方改革にも繋がっている。また、顔画像認識技術では、膨 大な映像から特定の出演者シーンを自動でみつけられることから、映像加工や編集の効率化に役立っている。映像要約技術では、カメラワーク度合いや顔領域などの重要度を映像に付与し、制作者が指定する演出意図に応じて短尺映像を自動で生成することも可能である。このように、画像処理による番組制作の高度化・効率化には、福島氏の研究成果であるAI技術が必要不可欠となってきており、さまざまな番組制作に利用されてきている。そのほかにも、音声や言語処理分野も含めて、放送に関わるさまざまな分野にAI技術が活用されて研究開発が進められており、今後も放送技術全般の飛躍的な進展が大いに期待されている。

以上のように、福島氏の独創的な神経回路モデル「ネオコグニトロン」に関する世界的な先駆的研究業績と、AI技術として放送分野にもたらした貢献はきわめて多大である。放送分野にとどまらず、本技術はさまざまな産業分野に影響を与えながら今後も発展し、人々の生活をより便利で豊かにするに違いない。