高柳健次郎賞 2017年受賞者

「半導体レーザーの梨明期における
先駆的研究開発と産業化への貢献」

須﨑 写真

須﨑 渉
(大阪電気通信大学名誉教授 1938年生)

[学 歴] 1961年  3月 京都大学工学部電子工学科 卒業
1975年12月 東京工業大学工学博士
[職 歴] 1961年  4月 三菱電機株式会社 研究所物理第3研究室
1968年  1月 三菱電機株式会社 北伊丹製作所 半導体研究部 研究員
1973年10月 三菱電機株式会社 北伊丹製作所 電力半導体製造部 製造課長
1975年12月 三菱電機株式会社 中央研究所 光デバイスグループリーダー
1984年10月 三菱電機株式会社 LSI研究所 光デバイス開発部長
1990年10月 三菱電機株式会社 光マイクロ波デバイス研究所 試作部長
1991年  8月 三菱電機株式会社 技術研修所 半導体デバイス教室室長
1994年  4月 大阪電気通信大学教授
2009年  4月 大阪電気通信大学名誉教授、その問2012年3月まで客員教授
  ● 主な受賞等
1980年度 電子情報通信学会業績賞
「単ーモード低しきい値TJSレーザダイオードの研究開発」
1984年     米国Laser Focus誌業績賞
「Laser Technical Achievement Award]
2004年度 大河内生産特賞
『DVD記録用赤色高出力レーザの開発と生産』
2015年度 大河内記念生産賞
「光通信用DFBレーザーの開発と生産技術の確立」
2017年     電子情報通信学会マイルストーン
「室温、連続単ーモード発振の
AIGaAs-GaAs系TJs型半導体レーザ」

主な業績内容

須﨑 渉博士は、三菱電機株式会社(以下、三菱電機)において、光通信や情報記録用途等に実用化されている各種半導体レーザーの基礎となるホモ接合GaAsレーザーの研究開発に、この分野でも早期となる1963年5月から参入した。1967年には、世界で初めてAlを含むAlxGal -xAs系の3元混晶の結晶成長と赤色半導体レーザーの製作に成功した。同年ラスベガスで開催された第1回半導体レーザー国際会議で発表し、大きな反響を呼んだ。その時すでに、GaAsに格子整合するAlGaAs/GaAs二重ヘテロ接合レーザーに適用できると考えていた。その講演を聴いた林厳雄らベル研究所グループのGaAs/AlGaAs系二重ヘテロ構造による室温連続動作(1970年)に大きな影響を与えたことは想像に難くない。

その後、須﨑博士は1968年より半導体レーザーの研究を一時中断して発光ダイオードの開発と生産に携わったが、1971年にはAIGaAs/GsAs半導体レーザーの研究に復帰した。1974年に自身の着想となるTJS(Transverse Junction Stripe)レーザーを同僚の協力により実現し、世界で初めて単ーモード動作を達成した。この頃、須﨑博士はこのレーザーを持って世界中の企業を廻り、マーケット拡大にも尽力した。

次いで、AlGaAs/GaAs系レーザーの寿命の短さを解決する壁の突破に挑戦し、GaAs中に存在する酸素を除去して結晶欠陥の発生を抑えることに気づき、AlGaAs/GaAsレーザーの長寿命化を実現して実用化の決定的な基礎を築いた。また、1982年にはこの頃登場した780nm帯CD用レーザーを製品化し、シャープ株式会社、ローム株式会社などと共に量産の一翼を担った。

これらの業績により、1980年度に電子情報通信学会より業績賞が与えられ、2017年には電子情報通信学会のマイルストーンに選定された。1984年には、単一モード動作レーザーの研究に対して米国の業界紙であるLaser Focus誌より、三菱電機に業績賞が与えられた。また、2015年度の大河内記念生産賞が三菱電機に与えられており、関係者は同博士が開いた道を高く評価している。

須﨑博士は単一モード動作レーザーや長寿命化、更には高出力化に関し、世界の半導体レーザー開拓史の中で、我が国が先導した研究開発の一翼を担った代表的研究開発者の一人で、その流れは三菱電機のみならずこの分野に脈々と活かされている。