高柳健次郎賞 2014年受賞者

「高密度録画技術の研究とそれらを応用した放送用デジタルVTRの開発」

大場 写真

大場吉延氏(元・日本放送協会 理事 1939年生)

[学 歴] 1963年 3月  東京工業大学理工学部 電気工学課程 卒業
[職 歴] 1963年 4月  日本放送協会入局
1988年 7月  日本放送協会 放送技術研究所 記録・機構研究部長
1992年 6月  日本放送協会 放送技術研究所 主幹研究員
1993年 6月  日本放送協会 技術局 計画部長
1994年 6月  日本放送協会 技術局長
1996年 9月  日本放送協会 理事
1998年 10月  NHKエンジニアリングサービス 理事長
2002年 9月  NHKエンジニアリングサービス 顧問
  ● 主な受賞等
1992年・98年 米国テレビジョン科学技術アカデミー エミー賞
1994年 4月 科学技術庁長官賞(科学技術功労者)
1994年 5月 テレビジョン学会 丹羽高柳賞 業績賞
2010年 3月 逓信協会 前島賞

主な業績内容

大場吉延氏の主たる業績は、デジタル映像信号を高密度に記録するための各コンポーネント技術を開発し、野外ロケ(カメラ一体型)から、ス タジオ制作さらにはアーカイブス(据え置き型)まで、放送で必要となるすべての分野の録画を1つの方式(シングルフォーマット)でカバーでき るVTRを開発したことにある。 また、同氏はこれらの技術を用いて、高画質なハイビジョン映像を劣化させることなくコンパクトに記録できる方式のVTRを実現させている。 これらの業績により、同氏は、米国テレビジョン科学技術アカデミーからエミー賞を受賞した。

同氏は、衛星放送の立ち上げ時には通信・放送衛星機構に出向するなどして草創期の業務の一端を担い、また、ハイビジョン放送の開始時に は必要となる各種の機器やシステムを従来方式と同じ大きさ、運用性のレベルに導くなど、ハイビジョン放送の推進にも貢献している。 NHKは、1978年に導入し標準機となっていたオープンリールの1インチアナログVTRの後継機の開発に1988年頃から着手したが、この時の 達成目標として、①番組制作過程で不可欠なコピーによる著しい画質劣化を避けるためデジタル記録であること ②運用が簡易となるためカ セットテープを採用すること ③野外での制作にも利用可能にするためカメラとVTRが一体型となること ④激増するコンテンツをコンパクトに 収容するため限りなく高密度な記録を実現すること、などが強く求められた。 しかしながら、デジタル化した映像の情報量は膨大になるため、これらは容易な目標とは言い難く、特に、カメラ一体型にするには使用するテー プは1/2インチ以下でなければならず、一方、スタジオ制作では囲碁・将棋などの長時間番組の収録があることから大容量テープが必要となり、 どちらの要求にも対応しなければならない。

そのような中で、同氏らは、NHK放送技術研究所がそれまで進めてきた高密度記録技術をベースにしながらも、VTRを構成するすべての要 素について洗い直しを行い、要求項目の実現を制約する可能性のある要素については詳細な分析を行い、それを解決した。 具体的には、高性能テープとヘッドの開発を推進するとともに、テープ・ヘッド系に最適な新しい記録変調方式である8-14変調方式を発明し、 著しく信号の品質改善を図った。短波長記録のVTR固有のドロップアウトに対しては、強力な訂正能力を持つ誤り訂正符号やコンシールメント 技術の開発で対応した。  そして、その成果をもとに、1989年に世界初の1/2インチテープを使用したトラック幅10μm、最短記録波長0.76μmという従来の約5倍 の記録密度を持つコンポジットデジタルVTRを試作し、NHK技研公開時に内外のメーカー各社や放送事業者に公開することにより小型フォー マットのデジタルVTRを共同で開発することを呼びかけた。 その後、1990年に開催されたNAB(NationalAssociationofBroadcasters)ショーにおいて実用機のプロトタイプを展示し、その後、実 用機としての信頼性を高めるための研究開発をさらに進め、その結果、VTRに本質的に求められるテープ互換、狭トラック環境下での機構精度 や最も厳しい精度が要求される編集互換の確保などが確証された。これらの開発成果に基づき、実用機のフォーマットを確立した。

また、この小型デジタルVTRのフォーマット開発にあたっては、世界統一規格とすることを目標の1つとしていた。そのため、制作で使われてい るNTSCとPALの両方式で共通化が図られるフォーマットを策定し、完成したフォーマットをSMPTEに提案し、国際規格化を進めた。 そのフォーマットは、1991年5月に「D-3」と命名された後、1993年にSMPTE 263M~265Mとして規格化された。 さらに、1992年には国際電気標準会議(IEC)規格としても承認された。これら規格化の審議にあたって、同氏は、SMPTEへの論文発表および 欧州放送連合(EBU)への寄与文書提出などを精力的に進め、国際標準化の進展に多大な貢献を果たした。

以上の業績の他、同氏は、ITUの放送衛星研究グループでは日本代表として、記録関係の研究グループでは副議長として会議の運営にも貢献し ており、我が国のみならず世界の放送技術の発展にも多大な貢献を果たした。