高柳記念賞 2011年受賞者

「衛星放送サービスの実用化」

泉 写真

泉武博博士(元日本放送協会 放送技術研究所 所長 1937年生)

[学 歴] 1960年 3月 東京工業大学理工学部電気工学科 卒業
[職 歴] 1960年 4月 日本放送協会入局
1986年 7月 NHK技術本部計画部長
1988年 7月 NHK放送技術研究所次長
1990年 7月 NHK技術計画部長
1991年 5月 NHK放送技術研究所長
1997年 6月 (株)放送衛星システム代表取締役社長
2003年 6月 (株)放送衛星システム顧問
  ● 主な受賞等
1980年 5月 日本ITU協会賞
1997年 5月 映像情報メディア学会 功績賞
2004年 4月 逓信協会 前島賞

映像情報メディア学会 名誉会員/IEEE ライフフェロー

主な業績内容

わが国は、世界で初めて家庭での個別受信を行う衛星放送を実現し、多くの国民が衛星放送を享受するに至ったが、黎明期においては、以下 のような幾多の未経験分野の研究開発と技術基準策定が必要であった。

(1)静止衛星を用いる超遠距離通信技術、ロケット技術、衛星の寿命推定技術、衛星を常時一定の誤差範囲内に静止させる管制技術の調査と研究。

(2)わが国の衛星放送を安定的に存続するために必要な、国際的に認知された静止軌道位置と周波数帯の確保、および国内ならびに国外の通信と衛星放送との間の相互混信を防ぐ国内および国際的な技術基準の策定。

(3)わが国の衛星放送に適したテレビジョン信号および付随する音声信号の伝送方式の決定。

(4)宇宙空間で安定的に動作する放送衛星開発、通信業務用と異なる低廉な家庭用受信機の開発と普及、さらに実験用放送衛星による確認実験。

(5)番組を電波に乗せ、衛星へ向けて送出する地上局あるいは地上移動局の設備の開発整備。

(6)衛星放送の安定的継続のための後続する衛星打ち上げ計画の推進、および21世紀のデジタルマルチメディア時代の新しい衛星放送サービスのための衛星計画。

泉武博博士は、NHKが放送衛星に関する調査研究に着手した昭和40年から、昭和53年にわが国が最初に打ち上げた実験用中型放送衛星 (BSE)まで、わが国の放送衛星開発の黎明期において、ロケット(例えば、姿勢安定を目的としてロケットに与える回転量の測定に関する研究な ど)、衛星の軌道と寿命、12GHz帯放送衛星の周波数および軌道の有効利用( 例えば、衛星放送波の干渉計算法とチャンネル割り当て法の研 究)、および衛星放送信号伝送方式(例えば、周波数有効利用を目的にテレビ信号と音声信号のライン時分割多重方式の衛星伝送実験など)等 の研究を精力的に推進し、わが国の放送衛星技術の基礎を築いた。

これらの幅広い放送衛星システムの基礎的研究の知見を生かし、わが国で初めての技術専門書「放送衛星の基礎知識」を執筆(昭和48年)。 衛星放送技術を放送事業者のみならず通信放送産業界やメーカー技術者に、未経験の衛星放送技術全般をわかりやすく紹介した。この著書 は、放送衛星打ち上げに必要なロケット、対地静止衛星の特徴、放送衛星本体および搭載放送機器、衛星管制制御、信号伝送方式、衛星放送の周 波数・軌道有効利用技術、衛星放送受信技術など衛星放送技術全般の育成に多大の貢献をした。

また、同博士は、12GHz帯放送衛星の軌道・周波数割り当てのためのITU国際会議(WARC-77、世界無線通信主管庁会議)にわが国の 代表として参加し、その会議において、わが国の軌道(東経110度)と8チャンネル確保のため、同博士が指導開発した放送衛星チャンネルプラン 作成コンピュータプログラムによりアジア各国間の調整を行うとともに、同博士が研究指導し得られた混信保護比の定量的なデータを会議に 提案し、世界的な放送衛星プラン作成に関する無線通信規則の重要事項である技術基準の策定に多大な貢献をした。また、昭和54年のITU 国際会議では、12GHz帯衛星放送用のフィーダリンク周波数分配と、12GHz帯以外での放送衛星業務用周波数分配に貢献した。

さらに、同博士は、科学技術庁が毎年開催する「宇宙開発計画の見直し」に関する宇宙開発委員会、長期ビジョン懇談会、あるいは郵政省の 「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」や「電気通信フロンティア研究推進委員会」、「COMETSシリーズの衛星の開発・利用に関 する連絡会」に参画し、継続する放送衛星打ち上げ計画や21GHzの新しいサービスの衛星技術を実験・検証する実験衛星計画(ETS VIII)の 実現を提案・推進した。

平成3年からは、NHK放送技術研究所長として、デジタル放送技術をはじめ、将来の放送のための研究開発を指揮するとともに、放送におけ る技術の規格統一や研究開発の国際化を推進した。平成6、7年度はテレビジョン学会副会長を務め、学会の名称変更など学会の発展に大きく 寄与した。

NHK退職後は㈱放送衛星システムの社長に就任し、アナログ放送衛星の安定的な管制運用を提供するとともに、平成12年12月のBSデジ タル放送の開始に向けて、衛星の調達・設備整備・安定運用を進め、BSデジタル放送の発展に貢献した。