研究奨励賞 2020年受賞者

●研究課題
「二次元物質における量子力学的光起電力効果を用いた発電デバイスの研究」

張 写真

張 奕勁
(東京大学 生産技術研究所 第一部 助教 (工学博士)1989生)

研究概要

環境問題の深刻化や電子科学技術の日進月歩の発達による消費電力の増加に伴い、化石燃料以外のエネルギー源に対する需要が高まっている。その中でも太陽光は、環境に優しく安全でかつ半永久的に存在するエネルギー源であり、太陽光発電の普及は持続可能な社会を支える上で非常に重要である。しかし、社会全体に占める太陽光発電の割合は非常に小さいままである。その一因として、既存の太陽電池における発電機構である異種物質界面に生じる古典的な光起電力効果が直面する30%という変換効率の理論限界が挙げられる。全く異なる発電機構として量子力学的効果に依存するバルク光起電力効果も知られている。この効果における変換効率には理論上限が存在せず30%を超えることが原理的に可能であるが、この効果の出現には物質の構造上の制約が多く研究が進んでいない。

本研究では、黒鉛等の層状物質、総じて二次元物質と呼ばれる物質群に着目し、光照射下における伝導測定からバルク光起電力効果の研究を行う。二次元物質群は、物質ごと及び層数ごとに様々な構造が実現できるという特徴がある。加えて、最近の科学研究の発展により主体的に二次元物質の構造を制御する技術が確立しつつある。この手法を応用することで、物質の構造とバルク光起電力効果の相関関係を明らかにしていくことを目指す。本研究で得られる知見は、将来的に光吸収や効率のより大きな物質の探索に繋がることが期待できる。

研究奨励賞 2020年受賞者

●研究課題
「ボトムアッププロセスで構築したプラズモニックメタ表面による生体分子計測」

當麻 写真

當麻 真奈
(東京工業大学 工学院 電気電子系 助教(工学博士)1984生)

研究概要

近年、人口の高齢化に伴う疾病の増加や新たな感染症流行から、疾病に関連する分子マーカーや病原体に由来する生体分子の迅速・高感度検出技術の重要性が高まっている。可視光をセンサ信号として用いる表面プラズモンバイオセンサーは、生体分子の高感度検出手法として確立されているが、光源や分光器が必要となるため、設備の整っていない現場での測定には課題があった。

本研究では、ボトムアップ型の微細加工法の特徴を活かして鮮やかに呈色するプラズモニックメタ表面を作製し、疾病や健康状態に関わる生体分子を簡易かつ迅速に高感度検出できる比色型のバイオセンサに応用する。ボトムアップ型の作製手法に特徴付けられるプラズモニックメタ表面の光学特性を明らかにするとともに、いつでも、どこでも生体分子計測が可能な汎用性の高い光学バイオセンサの実現を目指した研究である。

研究奨励賞 2020年受賞者

●研究課題
「IoT 用独立電源のための環境調和型熱電材料の高性能化」

永岡 写真

永岡 章
(宮崎大学 工学部 環境・エネルギー 工学研究センター 助教(工学博士)1986生)

研究概要

近年、様々なデータを活用する超スマート社会の実現に向けてネットワークを通じて相互に情報交換するIoT (モノのインターネット)機器の爆発的な増加が予測されており、多数のIoT機器に電力を安定して供給する小型独立電源の開発が求められている。環境中の「温度差」を利用する熱電発電はIoT用独立電源として期待されている。しかし、これまでの熱電材料は、希少元素や毒性元素が含まれており、将来普及を目指すためには、低コストかつ環境調和した高性能な熱電発電デバイス開発が望まれる。

本研究では、特許も取得している独自の結晶成長技術を用いて開発した高い熱電性能を示す環境調和した銅―亜鉛―スズ―硫黄系熱電材料のさらなる高効率化を目的としている。一般的に熱電材料には、「低い熱伝導率」と「高い電気特性」が必要である。界面(異相や粒界)は、低い熱伝導率実現のために有効であるが、同時に電気特性を低下させてしまう。電荷的に中性な界面を利用すれば両方の物性値を制御可能である。独自の技術から意図的に様々な異相や粒界を持つサンプルを用いる自由度のあるアプローチから、現在はブラックボックスとなっている詳細な界面特性の調査を行う。銅―亜鉛―スズ―硫黄系熱電材料中の異相量や粒界の整合性を示すΣ値を指標に「熱電特性に最適な機能性界面は何か?」を定量的に明らかにする。本研究を通じて、日本が世界に誇るモノづくり技術を発揮し、温度差を用いたIoT独立電源の本格的な普及と社会実装を推進する。