高柳健次郎業績賞 2016年受賞者

「8 K スーパーハイビジョン用イメージセンサの開発」

島本 写真

島本 洋
(日本放送協会 放送技術研究所 テレビ方式研究部 上級研究員 1964年生)

[学 歴] 2008年 9月 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 後期博士課程修了
[職 歴] 1991年 4月 日本放送協会入局 金沢放送局技術部
2007年 7月 NHKエンジニアリングシステム出向
2010年 6月 日本放送協会 放送技術研究所 主任研究員
2014年 4月 日本放送協会 放送技術研究所 上級研究員
  ● 主な受賞等
2006年10月 SMPTE Journal Certificate of Merit Award
2013年 6月 Walter Kosonocky Award
2014年 5月 丹羽高柳賞 論文賞
2014年 5月 技術振興賞 進歩開発賞(研究開発部門)
2016年 5月 映像情報メディア未来賞 次世代テレビ技術賞

主な業績内容

高い臨場感と本物のような実物感を実現する8Kスーパーハイビジョン(以下、8K)は、超高精細映像を用いた次世代のテレビジョンシステムであり、2016年に試験放送が開始され、2018年には実用放送が予定されている。8Kを担う技術の中でもイメージセンサは、映像の画質を左右する重要なキーデバイスの一つである。島本 洋氏は、この8K用イメージセンサの研究開発を主導的に推進した。

8Kでは、画素数がハイビジョンの16倍(7680×4320画素、合計約3,300万画素)となる超高精細映像を用いている。その動画像を構成する1秒あたりの画像の枚数(フレーム周波数)は、これまで60 Hz(60フレーム/秒)が用いられてきた。しかしながら、次世代のテレビジョンシステムにおいて、スポーツ番組など動きの速い被写体でも鮮明、かつ、なめらかな映像として再現するためには、フレーム周波数を120 Hz以上に高める必要があった。そこで同氏らは、2012年に世界で初めて、画素数3,300万、フレーム周波数120 Hzの8K用イメージセンサを開発した。イメージセンサには、画素部で得られるアナログ信号をデジタル信号に変換するためのAD変換回路が内蔵されており、上記の画素数およびフレーム周波数で全画素の信号電荷量を欠落なく正確に読み出すためには、このAD変換回路の高速動作化が重要となる。また、高速動作はイメージセンサの消費電力の増加を招いてしまうため、その低消費電力化も課題であった。同氏らの研究グループは、高速動作性能に優れたサイクリック型AD変換回路を用い、さらに上位ビットと下位ビットの2段に分けて並列で動作させる技術を開発することにより、これまで困難であった高精細で、かつ、高フレーム周波数という相反する条件を、同時に実現した。さらに、AD変換回路を分割し1段あたりのビット数が減ると回路のアンプの消費電力も低減できることから、1段目と2段目のAD変換ビット数の最適な配分をシミュレーションにより計算し、AD変換回路全体の消費電力を低減した。これらの結果、開発したイメージセンサは、3,300万画素で、フレーム周波数120Hz、AD変換階調14ビット、出力データレート63.8Gb/s、消費電力3.2W、感度3.6V/lx・sを達成し、放送用カメラとして実用的な性能を実現し、大きな業績を挙げた。

同氏は、開発したイメージセンサを用いた8Kカメラの開発においても中心的な役割を果たした。2012年には120Hzで動作する3板式カラーカメラを開発した。2013年には1枚の撮像素子でカラー映像を撮影できる単板カラーイメージセンサを開発し、カメラヘッドの重量が2kgの超小型単板カラーカメラを開発した。2014 年には3板式カメラを広色域化し、国際規格(国際電気通信連合、ITU -R)の勧告BT.2020に完全準拠した、フルスペック8Kカメラを開発した。さらに2016年にはカメラをHDR化し、ITU-R勧告BT.2100にも準拠した。これらのカメラ開発は、早期に120Hzの8K映像を実現しただけでなく、国際規格化の推進にも大きく貢献した。

同氏は、8K用イメージセンサおよびカメラの実用化にも貢献した。イメージセンサは2016年よりメーカーから販売が開始され、またカメラは2015年に複数のメーカーから実用的な放送用8Kカメラが開発された。これらのカメラはすでに広く活用され、紅白歌合戦などの音楽番組、オリンピックなどのスポーツ番組、美術館や屋外でのロケーション撮影など、多くの番組制作に用いられている。

同氏らが開発したイメージセンサは、放送用途だけでなく、医療用途にも使用されている。2016年には、小型で高精細な内視鏡カメラが開発された。今後も放送、医療、科学、産業、セキュリティなど、幅広い分野への応用が期待される。