高柳健次郎業績賞 2015年受賞者

「スーパーハイビジョン映像方式の研究開発と標準化」

西田 写真

西田 幸博
(日本放送協会 放送技術研究所 テレビ方式研究部 上級研究員 1961年生)

[学 歴] 1985年   3月 慶應義塾大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 修士課程修了
2013年 9月 電気通信大学 大学院 情報システム学研究科 後期博士課程修了
[職 歴] 1985年 4月 日本放送協会入局 甲府放送局技術部
1988年 8月 日本放送協会 放送技術研究所
2003年 6月 日本放送協会 放送技術研究所 主任研究員
2014年 4月 日本放送協会 放送技術研究所 上級研究員
  ● 主な受賞等
2011年 6月 日本ITU協会賞 功績賞
2011年 9月 IBC2011 Best Conference Paper Award
2015年 1月   前島賞

主な業績内容

西田幸博氏は、超高精細度テレビジョンの映像方式の研究開発と国際標準化、そして、超高精細度テレビジョン放送の導入に取り組んできた。
 スーパーハイビジョンに代表される超高精細度テレビジョン(UHDTV)は、ハイビジョン(HDTV )を凌駕する高臨場感や視聴体験の提供を目指して開発された究極の二次元テレビジョンである。UHDTVは、画素の高精細化に加え、カラーテレビジョンの色を表現する表色系や、動きの再現性を特徴付ける時間解像度についても新たな技術パラメータ値が採用され、さらに、ダイナミックレンジの拡大が検討されている。

同氏は、特に超高精細度テレビジョンの表色系の研究に取り組み、要求条件の設定から広色域表色系の設計、そして、広色域表色系に対応したカメラやディスプレイの開発に至る研究を主導した。同氏の研究グループは、実物に近い色再現によって質感の向上を図るため、色域や表現方法などについての要求条件を検討し、これらを満足する表色系として、スペクトル軌跡上の単波長光源(レーザー)に相当する色度点を三原色とする広色域表色系を設計した。これによって、実在する物体の最大色域を代表するポインターカラーの包含率は、HDTV表色系が74.4%であるのに対して、99.9%以上を達成した。さらに、同氏の主導の下、広色域表色系に準拠したカメラやディスプレイを開発した。カメラプリズムの分光感度特性を広色域表色系に基づいて新たに設計・製作し、8Kスーパーハイビジョン広色域カメラを開発した。また、広色域表色系に準拠した表示装置として、光源をRGBレーザーとした8Kスーパーハイビジョンプロジェクタや、液晶ディスプレイのバックライトをRGBレーザーとした直視型ディスプレイを開発した。これらによって高彩度の色の忠実な撮影・表示を可能とし、広色域表色系の有効性と実現性を実証した。

同氏は、超高精細度テレビジョンの映像方式の国際標準化において、ARIB放送国際標準化ワーキンググループ座長並びに情報通信審議会放送業務委員会専門委員として、ITU-Rへの提案文書をとりまとめると共に、ITU-R第6研究委員会(SG6)副議長としてスーパーハイビジョンの映像方式の勧告作成を主導した。広色域表色系を含むUHDTVの映像方式を2009年10月にITU-Rに提案し、審議を経て、2012年8月にITU-R勧告BT.2020が承認・発行された。その後、同方式はARIB標準規格STD-B56やSMPTE規格ST2036-1にも採用された。
 8Kスーパーハイビジョンのデータレートは、高精細化と高フレーム周波数化によって、従来のHDTVの100倍近くに上る。同氏は、このような大容量の映像データをスーパーハイビジョン機器間で伝送するための新たなインターフェース方式を考案した。同氏の主導の下、同インターフェースの国内外での標準化を進め、電波産業会(ARIB)標準規格STD-B58、米国映画テレビ技術者協会(SMPTE)規格ST2036-4、国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)勧告BT.2077が策定された。

さらに同氏は、超高精細度テレビジョン衛星放送方式の策定においても、ARIB作業班主任並びに情報通信審議会作業班委員として、映像符号化方式の策定を主導した。この中で、画質の主観評価実験によって放送品質を満足するためのビットレートを導出し、広色域やフレーム周波数120Hzを含む4K /8Kの映像符号化方式を策定した。この技術基準に基づき、現在、2016年の試験放送、2018年の実用放送に向けて準備が進められている。