高柳健次郎業績賞 2011年受賞者

多様な機器の遠隔一元制御のための研究開発および国際標準化(OSGi)

川村 写真

川村龍太郎博士
(NTT未来ねっと研究所 メディアイノベーション研究部長 理事 1964年生)

[学 歴] 1989年 北海道大学工学部 修士課程修了
[職 歴] 1989年 日本電信電話株式会社 入社 伝送システム研究所
1998年 米国コロンビア大学 客員研究員
1999年 NTT未来ねっと研究所 主任研究員
2003年 NTTサイバーソリューション研究所 主幹研究員
2008年 独立行政法人 情報通信研究機構 出向
2010年 NTT未来ねっと研究所 主幹研究員
  ● 主な受賞等
2005年 NTTサイバーコミュニケーション総合研究所 総合研究所長表彰
研究開発賞
「サービスプロバイダ開拓と共同実験実現により事業化を
加速したCSCの研究開発」
2005年 NTTサイバーソリューション研究所 研究所長表彰
 標準化活動賞 「OSGi標準化活動」

主な業績内容

川村龍太郎博士は、1998年にソフトウエアの共通部品化を実現するソフトウェア・コンポーネント技術と共通化された部品を通信ネットワークを介して利用する技術の基礎的研究を開始し、その後継続的に研究開発を進めると共に、自ら国際標準化をリードして来た。それらの結果、この研究成果は、国際的に多くの業態において基盤的な技術として実際に利用されると共に、同博士が特に重点的に取り組んで来た情報通信ネットワークとそれらに接続する機器の連携によるライフサポートについて2011年に本格的なサービス提供開始に至った。以下に研究的側面と国際標準化の側面について記載する。

(1)研究活動
 同博士は、1998-1999年米国コロンビア大客員研究員時にソフトウエア・コンポーネント(エージェント、アクティブネットワーク技術に関連)を用いた通信機器の制御・管理に関する基礎的研究を開始。1999年以降はその研究経験を生かしNTT研究所において一貫してその研究開発を実施してきた。ソフトウエア・コンポーネント技術は電子機器の機能やサービスを実現するソフトウエアを「部品」単位で構成し、その組合わせによって構築する技術である。いわば、玩具のブロックのようにパーツ(ソフトウェア部品)を自由に組み合わせることで所望の機能全体を構成する。情報機器(PC、サーバ、携帯電話、ゲートウエイ、ルータ、AV機器、自動車、オフィス機器等)が必要とする機能を、ソフトウエア部品(OSGiでは「バンドル」と呼ぶ)を組み合わせることによって簡便に構成することができる。 同博士は、情報通信の発展に伴い家電、センサ、住宅、自動車など多様な機器がネットワークに常時接続・連携動作しながら人や社会をサポートする将来像にいち早く着目し、これらの情報通信機器をソフトウエア部品によって構成すると共に、そのソフトウエア部品をネットワークを介してダウンロードすることによってユーザやサービス提供者が容易に新サービスの追加、ユーザ毎のカスタマイズが出来る方法を重点的に研究・開発して来た。特にサーバに配置したソフトウエア部品を安心・安全に情報通信機器に配信・管理するOSAP (OSGi Service Aggregation Platform)の概念を提唱し実用化開発を行うと共に、OSGiアライアンスにおいてその標準化を進めて来た。その結果本技術はネットワークを介したライフサポートを行う「ホームICTサービス」(例:NTT東西の「フレッツ・ジョイント ※1 」)として本格的にサービスが開始されるに至っている。

※1 http://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20110801_01.html

(2)国際標準化活動
 ソフトウエア・コンポーネント技術はソフトウエア部品の再利用性の高さによってソフトウエアの生産性向上を図る技術である為、その標準化は極めて重要である。同博士は本技術の国際標準化団体であるOSGiアライアンス※2 においてその黎明期からボード・オブ・ディレクタ (2003年-現在)及び副会長(2005年-現在)として精力的に国際標準化及びその普及活動を強力に牽引してきた。 その間、技術仕様に関して様々な検討を行い、その結果、小規模な組込み機器から巨大なサーバ、クラウド機器までが同一仕様の元で同じソフトウエア部品を利用出来るようになった。またその技術普及に関しても国際会議の開催や他の標準化団体(HGI、UPnP、 BBF、 OMA等)との連携を促進すると共に、多くのソフトウエア関連業界や企業に提案活動を行い、その利用範囲を大きく広げて来た。日本国内に関しても技術普及を目的として「OSGiユーザフォーラムJapan※3」を発起人となって設立(2004年)し、現在150団体のメンバを得て活動している。 これらの結果、本技術は現在国内外において上述のホームICTの他にも、ナビゲーション機能など多様な高機能サービス提供可能な自動車、世界規模でのビルや工場の遠隔管理制御、膨大な機能統合制御を必要とするアプリケーションサーバ・クラウドなど、計算機・情報通信機器の多様な分野において基盤技術として広く利用されるに至っている。

※2 http://www.osgi.org
※3 http://www.osgi-ufj.org