高柳健次郎賞 2016年受賞者

「液晶の基礎物性の解明および高品位カラー液晶テレビの研究開発に対する貢献」

内田 写真

内田 龍男
(東北大学名誉教授 国立高等専門学校機構顧問 1947年生)

[学 歴] 1970年 東北大学 工学部 電子工学科 卒業
1975年 東北大学 大学院工学研究科 電子工学専攻 博士課程修了
[職 歴] 1975年 東北大学 工学部 電子工学科 助手
1989年 東北大学 工学部 電子工学科 教授
2006年 東北大学 大学院工学研究科 工学研究科長・工学部長
2010年 国立仙台高等専門学校 校長
2013年 国立高等専門学校機構 理事
2016年~現在 東北大学 名誉教授、国立高等専門学校機構 顧問
  ● 主な受賞等
大河内記念技術賞(1986年)、新技術開発財団・市村賞(貢献賞)(1993年)
IEEE(米国電気電子学会)フェロー(1997年) ライフフェロー(2009年)
科学技術振興事業団・井上春成賞(2001年)
Society for Information Display・Jan Rajchman Prize(2004年)
内閣府産学官連携功労者表彰・文部科学大臣賞(2005年)
Society for Information Display・Slottow-Owaki Prize(2008年)
映像情報メディア学会 丹羽高柳賞・功績賞(2013年)
日本放送協会放送文化賞(2014年)
日本液晶学会・功績賞(2016年)

主な業績内容

内田龍男氏は液晶ディスプレイの黎明期の1970年から研究を開始した。当時、液体や有機物は主要な電子工学材料として使われたことがなく、理論や実験手法も確立されていない未踏の分野であったが、液晶の化学合成からスタートし、電子工学材料に必要な超高純度化を達成することから始めている。次いで、基礎物性の解明と共に、液晶ディスプレイの高機能化、高性能化の研究を進め、世界の液晶ディスプレイの研究・開発をリードしてきた。その研究成果は次の2つに大別される。

[1]液晶の基礎物性の解明と制御
  液晶の物性や液晶ディスプレイへの応用がまだ不明確であった時期に、同氏は液晶の分子を一様に配列させることやその方向を制御することが、将来の液晶ディスプレイの最も重要な基盤技術となることを予想してその研究に注力した。その結果、基板表面に吸着した微少な不純物の影響や基板表面のミクロな構造と液晶の配向の解析から、基板表面と液晶との分子間相互作用が液晶の配向の支配的な要因であることを明らかにした。また、基板表面の配向処理が表面付近の液晶の配向秩序度に重要な影響を及ぼすこと、それによって液晶の表面配向力の強さ(アンカリング強度)が支配されることなどを明らかにした。これらの成果は、その後始まった液晶ディスプレイの生産の過程で、再現性や精度の高い生産技術の確立に大きく貢献している。これらの成果に対して国内外から多数の賞が授与されている。

[2]液晶ディスプレイの高性能化
  同氏は液晶ディスプレイの高性能化を目指して幅広く研究を行い、フルカラー液晶ディスプレイの実現や広視野角、高速化を達成している。具体的には、まず液晶と2色性色素を用いるゲストホスト方式(GH方式)に着目し、液晶に添加する2色性色素の設計と合成、液晶や色素の分子配向および入射偏光の制御、2層型GH方式の考案などを行い、色純度とコントラストを著しく向上させた。その結果、単色カラー液晶ディスプレイとして事務機器や自動車用ディスプレイに実用された。次いで、フルカラー液晶ディスプレイの研究に着手し、最終的に加法混色の原理を用いて、液晶セル内の微少な電極に赤、緑、青の微細なカラーフィルタを密着させたフルカラー液晶ディスプレイを考案した。しかし、その実現には、当時の色素型や干渉型のカラーフィルタは数十~数百μmと厚く、液晶セル内に導入するのに大きな障壁となった。研究を重ねた結果、色素型カラーフィルタを印刷した後、焼成によってバインダー樹脂を昇華させて色素だけを残すことで厚さを著しく減少させることに成功した。これに保護膜を塗布して1μm以下のカラーフィルタを実現し、初めてカラー液晶ディスプレイを試作し、この方式の妥当性と有効性を実証した。続いて、フォトリソグラフィによる薄くて微細なカラーフィルタの実現に成功したこれによってフルカラー液晶ディスプレイが実現し、これが今日のカラー液晶テレビやノートパソコン、携帯電話などに広く使われている。その後、同氏はさらにバックライトを取り除いた超低電力の反射型カラー液晶ディスプレイの研究に取り組み、理論と実験を駆使して最終的に紙と同程度の明るさと質感を達成した。これが、電子手帳、携帯ゲーム機などに実用されると共に白黒の携帯電話用ディスプレイのカラー化を達成させた。さらにこれが新たな小型高精細液晶ディスプレイの分野を産み出し、各種のモバイル機器や今日のスマートフォンへの流れを作っていった。

一方、液晶の配向構造や複屈折フィルムの光学設計により、液晶ディスプレイの弱点であった視野角の狭さ、応答速度の遅さなどを次々と改善して、その高性能化を達成している。これらのカラー化や高性能化の業績に対して国内外から多くの賞が授与されている。

なお、内田氏はこれらの研究開発を通して液晶および映像情報分野の発展に実質的貢献をすると共に、映像情報メディア学会会長、日本液晶学会会長、電子情報通信学会専門委員会委員長、応用物理学会理事、評議員、International Liquid Crystal SocietyのBoard member、International Liquid Crystal Conference実行委員長、International Display Workshops組織委員長などを歴任し、学術分野や業界の発展にも大きく貢献してきた。