高柳健次郎賞 2015年受賞者

「コンピュータネットワークに関する先駆的研究と高度ネットワーク利用の普及への貢献」

宮原 写真

宮原 秀夫氏(大阪大学名誉教授 元総長 現在 大学院情報科学研究科・特任教授 1943年生)

[職 歴] 1973年 工学博士(大阪大学)
1980年 大阪大学 基礎工学部 助教授
1989年 大阪大学 基盤工学部 教授
1995年 大阪大学 大型計算機センター長
1998年 大阪大学 基礎工学研究科長
2002年 大阪大学 情報科学研究科長
2003年 大阪大学 総長
2007年 独立行政法人情報通信研究機構 理事長
2013年 大阪大学大学院 情報科学研究科 特任教授 現在に至る。
  ● 主な受賞等
電子情報通信学会 論文賞(1991年) 業績賞(1999年) 功績賞(2008年)
IEEE(米国電気電子学会)フェロー(1997年) ライフフェロー(2009年)
通商産業大臣賞(1997年)
第6回エリクソン・テレコミュニケーション・アワード(2002年)
総務大臣賞(2003年)
日本放送協会 放送文化賞(2013年)

主な業績内容

宮原秀夫氏は、米国でのARPANETプロジェクト発足当初より、国内でもいち早くコンピュータネットワークにおけるパケット交換技術の回線交換技術に対する優位性に着目し、それを明らかにすることにより、コンピュータネットワークの基本交換システムに大きな変革をもたらした。具体的には、コンピュータネットワークに対して、回線交換原理とパケット交換原理を適用した場合の性能比較評価を行い、パケット交換原理の優位性を理論的に証明した(1978年IEEE Trans. Comm.)。この論文の結果を発展させた研究はその後、多くの研究者によってなされ、多くの論文でたびたび引用され、その研究成果は、現在のコンピュータネットワークのアーキテクチャの決定に対して多大な影響を与えた。

その後、企業や大学などでの導入が広まり始めた小規模なコンピュータネットワーク(LAN)を対象とした研究にも着手し、高速で効率のよい構内通信システムを構築するための通信制御手法を明らかにした。具体的には、LANにおける多重アクセス制御方式であるCSMA/CD方式、トークンパッシング方式などのモデル化と性能評価を行い、それらの性能特性を明らかにした。一連の研究は、その後のLANシステムの開発に対する大きな指針となったものである。現在、LANは構内における分散処理システムの基盤技術としてだけでなく、インターネットへのアクセス手段としても重要な技術となっているのは周知の通りである。

さらに、1980年代後半からは、高速広帯域なマルチメディア通信を実現する通信方式として非同期転送モード(ATM)方式の研究にもいち早く取り組んだ。企業との共同研究により研究開発したATMスイッチ技術は、国際的な標準化機関であるATMフォーラムへ寄書を提出するとともに、共同研究相手先メーカの製品として採用され、実用化への道を大きく拓いた。さらに、大阪大学において、ATMスイッチを用いたキャンパスネットワークを構築・運用することによって、その実用性を証明した。すなわち、理論的貢献だけでなく、技術開発、さらにはその実用化まで取り組んだところに、宮原秀夫氏の学術的活動の特徴があるものである。なお、このキャンパスネットワークは、ATMスイッチを用いたものとして世界最大規模のものであり、諸外国からも見学者が訪れるなど世界に先んじた先鋭的な取り組みであった。

また、コンピュータネットワークの理論的研究成果を実証する場として、ネットワークの構築やネットワークを利用した高度情報処理技術を開発するだけでなく、それらを応用したマルチメディアシステムを開発するなど幅広い活動を行っている。具体的には、マルチメディアプレゼンテーションシステムのためのハイパーテキストとオブジェクト指向の概念を組み合わせた新しいモデルを提唱し、それに基づくシステム(Harmony)を実装し、マルチメディアシステムのあり方を示した。国内でも他の研究者に先駆けてコンピュータネットワークにおける分散型マルチメディアシステムの可能性に着目し、取り組んだ一連の研究活動の成果は、同分野におけるその後の研究活動に大きな影響を与えた。

さらに、情報通信研究機構理事長として、インターネットの先を見据えた新世代ネットワーク基盤の研究開発に世界に先駆けて着手した。その結果、欧米諸国やアジア諸国との連携や国際標準活動を通じて、新世代ネットワークの研究開発に関する国際的イニシアティブを確保しつつあり、我が国の情報通信分野の競争力を強化するとともに、世界的な情報通信分野の発展にさらに寄与している。