高柳記念賞 2012年受賞者

「画像・映像をコンパクトに表現するための符号化方式、および通信に関わる研究と国際標準化への貢献」

安田 写真

安田浩
(東京電機大学 未来科学研究科 委員長/未来科学部長 教授 1944年生)

[学 歴] 1972年 3月 東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻 博士課程修了
[職 歴] 1972年 4月 日本電信電話公社入社
1995年 7月 NTT理事・情報通信研究所所長
1997年 4月 東京大学 教授 先端科学技術研究センター
2003年 4月 東京大学 国際・産学共同研究センター長
2007年 4月 東京電機大学 教授 未来科学部 情報メディア学科
2008年 6月 東京電機大学 総合メディアセンター センター長
2011年 4月 東京電機大学 未来科学研究科委員長、未来科学部長
  ● 主な受賞等
1987年 1月 高柳記念財団 昭和61年度高柳記念奨励賞
1996年 10月 米国テレビジョンアカデミー 1995・1996エミー賞
(技術開発部門)
2000年 10月 IEEE the 2000 IEEE CHARLES PROTEUS STEINMETZ AWARD
2009年 4月 紫綬褒章
2011年 10月 平成23年度工業標準化 (内閣総理大臣) 表彰

東京大学名誉教授、IEEE(ライフフェロー)、
電子情報通信学会(フェロー)、情報処理学会(フェロー)

主な業績内容

安田 浩氏は、東京大学大学院在学中からNTT・東京大学を経て現職の東京電機大学に至るまで永年に渡り情報通信分野の研究開発・国際 標準化ならびに教育に継続的に努め、顕著な功績を挙げ、「MPEG生みの親」と称されるなど多大なる貢献を果たした。さらには画像符号化・通 信の応用技術であるコンテンツ流通に関わる種々の技術開発の指導にあたるなど、幅広く活躍している。

デジタル化した画像情報は、データ量が膨大となるため、その伝送・蓄積・演算に大きな負荷がかかるという問題が生じる。同氏は、この問題を 解決すべく、デジタル画像符号化に関する研究に先駆的に取り組み、著しい成果を挙げ世界を牽引した。

画像符号化とは、画像情報が含有する「冗長な情報」を削除し必要最低限の情報を取り出す処理である。例えば、風景写真の背景(青空など)は 隣り合う画素同士が同じ値をとることが多い(空間的冗長度が高い)。同氏は、複数の空間的冗長度計算法から最適な方法を適応的に選択する 「適応型予測符号化方式」を開発し、高品質で高い圧縮を実現した。一方、動画は連続する静止画像(フレーム)の集まりであり、前後する画像同士 はあまり変化しないことが多い(時間的冗長度が高い)。同氏の研究は、時間的冗長度除去後の画像情報に空間的冗長度を除去する処理「フレー ム間符号化方式( 昭和52年) 」により、動画像の大幅な圧縮を実現可能にしたものである。これらの方法は、静止画像符号化国際規格JPEGや動 画像符号化国際規格MPEGの必須技術となる世界初の成果であり、発明から40年弱を経た現在も、最新の映像符号化規格MPEG-4 AVC ¦ H.264や次世代映像符号化規格HEVC (High Efficiency Video Coding)において同一の枠組みが用いられている事実は、同氏の慧眼の証 左といえる。

同氏はこうした先駆的技術を提案するのみにとどまらず、国際標準化することで世界に貢献することを目指し、卓越した統率能力を発揮し、 現在広く利用されているJPEG, MPEG方式の策定に結実させた。同氏は昭和60年に国際標準化組織ISO/IEC JTC 1/SC 2/WG 8(現 ISO/IEC JTC 1/SC 29)議長に就任し、VTRで二つの規格が併存したことの反省を受けて国際標準は唯一たるべきとの信念を貫き、国や企 業の利害を超えて一切の妥協を許さず、静止画像符号化規格JPEGを策定した。JPEG策定後は動画像符号化の標準化作業を開始し、史上異 例の速さでMPEG-1及びMPEG-2規格を策定した。JPEGのデジタルカメラその他での成功は言うに及ばず、MPEG-2はデジタル放送や DVD等の蓄積メディアで幅広く採用されるなど、全世界に大きな利益をもたらした。

同氏のこうした画像符号化研究と標準化貢献は世界的に著しい評価を受け、平成8年米国テレビ芸術科学アカデミーよりエミー賞(技術開発 部門)を国際標準化貢献者として初めて、また同12年国際標準化貢献者を表彰するIEEE Charles Proteus Steinmetz賞を米国人以外では 初めて受賞した。平成22年にはIEEEのライフフェローの称号を授与された。さらには平成21年紫綬褒章を受章したほか多数の表彰を受けて いる。

平成7年にセキュリティ専門家資格CISSPを取得し、インターネットの普及に欠かせない「安全性」「安心感」を目指した。映像配信技術の標準 化を推進するDAVIC (Digital Audio Visual Council)プレジデント(平成8年)、配信コンテンツの管理・保護を目的としたコンテンツIDフォー ラム会長(平成11年)などを歴任し、セキュリティ・認証技術の発展に貢献し、映像配信ビジネスの立ち上げに大きく寄与した。さらに最近では、 画像コンテンツに関する創生・流通に関する研究開発も精力的に進めている。これらの業績により、平成20年 情報セキュリティの日 内閣官房 長官個人功労賞、同24年(ISC)2 Harold F. Tipton Lifetime Achievement Awardほかを受賞した。